フォントに込められた想い Rev1

文字数 1,227文字

私は先輩に返事をした。
「あの集合体は、フォントサイズ1の文章でした」
とたんに先輩のテンションは上がった。
「もったいぶらないで早く教えろって!」
「そんなつもりないですよ!拡大してみますね。」
私はものすごく緊張していた。
彼がフォントを小さくしてまで伝えたい事とはなんだろうか?
フォントサイズを10まで上げた。
『後輩の~さんや~さん、または新しく入社した女性陣にどうしてテストを頼まなかったのか?もともとの動作確認テストの候補だった二人とは誰だったのだろうか?』
彼の素朴な疑問が描かれていた。
このような、反応はとても珍しいから私も驚いた。
いつも落ち着いている彼が『年相応の、私より少し若い男性』に見えたのだ。

先輩に一部を教えると
「なんなのその反応…意味分からん。」
とがっかりしていたようだ。
そう、彼はとても分かりにくいのだ。

「それ、返事するの?」
「今はまだ13時すぎなので時間もありますし、しますよ。」
「言ったら?」
「何をです?」
「『あなたの声が聞きたかったから』って。」
私は真っ赤になってしまって
「それは無理です…」
と気弱になってしまった。

私は本当のことしか話さない性格であるが、本当に無理だと思ったからだ。

私はその後、『真面目に』先輩と動作確認テスト前テストを進めていった。

14時になった。あと一時間だ。
「さて、ちゃんとできるんかいな」
「緊張してきました」
「こういうボタンとかうまく使えないとかちゃんと言うんだよ」
「分かってますよ!」
「ほんとかなあ」
「うう…」
「先輩、私ね…」
「ほんとにこうやって軽口を叩ける人間なんですよ。」
「でも彼を前にすると何も話せなくなるんです…」
「へぇ…乙女じゃん。『らしくない。』」
「えー!?」
「俺戻るわ。」
「がんばってこいよー、じゃあなー」

通話が終了した。
クズとはいえ、私にはいい先輩である。

(さて…)

私は彼に返信を出した。

「今日は15時より、よろしくお願いいたします。私の後輩たちはPCに疎いためテストには協力してもらえませんでした。候補の方は別のサイトにいる方たちです。今日は運が悪くどちらともタイミングが合いませんでした。」

そして、その後に続く文章はフォントの色を限りなく白に近いグレーに変えて打ち込んだ。

「ヘッドセットを選定してくださったのは~さんですし、今日は~さんと偶然お遭いしましたので、『~さんがいいな』と思いお願いしました。」

そして元のフォントの状態に戻し、「以上、よろしくお願いいたします。」と締めた。

彼からなんと返信が来るか非常に気になってしばらくメールボックスに釘付けになっていた。

しかし彼からは返事は来なかった。
フォントのしかけを見逃されてしまったのだろうか。
私はもう少しグレーの色を濃くすれば良かったかと後悔した。

そしてこれ以降、彼からフォントを変えたりするメールは来なかったし、彼の気持ちが書かれているメールが送られてくることもなかった。

15時まで、あと10分だ。
私は予約していた会議室へ急いだ。

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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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