欲望が見せる夢 【R15作品】 Rev1

文字数 3,093文字

これは夢だと私は気付いた。

全てが真っ白な部屋になんて住んだことがない。
広いベッドの隣には彼が居て身体を丸めてぐっすり寝ていた。

(睡眠の邪魔をしたらかわいそうだ…)

私は彼の寝顔をそっと見る。
横顔だからよく分からないが、無防備なこともあり彼は幼く見えた。

私は自分がこの一年で老けたことを感じて
あまり彼に近付きたくなかった。

起きあがって洗面所に行こう。
すっぴんでは彼に見られたくない。

洗面所に向かおうと起きあがろうとしたとき腕を掴まれた。

彼だ。片目を開けてこちらを見ている。
いつから気付いていたのだろう。

そのままベッドに押し倒される。
私は顔に両手を持ってきた。
今ほんとうに、彼に顔を見られたくなかった。

でも彼はそれを許さない、手首を掴んでこじあける。
「どうして…」
私は泣きそうになりながら彼のことを見る。
「…」
彼は何も答えない。

私は顔を見られるくらいならと代わりに彼の胸に飛び込んだ。
そうしたら彼が優しく抱きかかえてくれるだろうからと思った。

しかしそうではなかった。
彼はするすると私の服を脱がせていく。
あっという間に服が消えていた。

「しまった」
私は急いでシーツをひっぱり身体を隠した。
『老けた』身体を見られたくなかった。

彼は自分だけ服を着たままで私のことを見下ろしていた。

『見られる準備』を何もしていない私を見られたくない。
私は必死に拒んだが、彼は私の腕を掴んで放さなかった。

彼は私のことをずっと見ていた。
飽きずに何分も。特に私の目をずっと。

いつまでするのだろうと思ったとき、彼が覆い被さってきた。

「ようやく、始まるのだ。」

不思議なことに、今まで嫌がっていた私がこれに安堵した。


私は彼の胸に手を当てる。
耳を近づける。

彼の鼓動が聞こえてくる。
それが早いのか、遅いのかは分からないけど、彼が文字ではなく人間として存在し、今触れていることが実感できる。

それを確かめてから、彼を見上げたら、彼の顔が近付いて私たちは口付けをした。

彼の口付けはすごく優しくて触れるような物だった。
何を考えているのか分からない彼だったけど、いつも私のことはこのように考えていたのではないかと思わせてくれるには十分だった。

私と彼はそれが終わるとまた見つめ合った。

しばらくそうしていると、彼は手を私の耳に持ってきて触りだした。

くすぐったい。
私は身をよじる。
そうしたのもつかの間、今度は彼が私の左耳をなめてきたのだ。

「いけない、これはだめ」
私は否定する。

「『何が』だめなんですか?」
彼はいったんやめて私の目を見た。

「?」
私は不安そうな顔で彼を見る。

「ちゃんと言わないと、」
彼は私の耳を触る。

「?」
なんでやめてくれないの?

「分かりません」
彼は私の耳を擦ってくる。

そういって会話が一方的に終わると、耳にかぶりついてきた。

その瞬間、私の身体は飛び跳ねてしまった。
恥ずかしくて仕方がない。

「──」
私は声にならない声をあげた。

「どうしていやがるんですか?」
彼が私に問いかける。

「~さんがずっと『したがっていたこと』をしているだけですよ?」

私が…望んでいたこと?
私は起き上がり、上着を手に取ると、急いで着た。

彼は私の目を見ている。
見透かしそうなほどじっと…

そして私の肩から腰にかけて、手の甲でなぞった。
おかしくなってしまいそう。
彼はわたしのことをなぜ色々知っているのだろう?

彼は含んだような笑いをした。
「『どこが』いやか、ちゃんと言わないと…」
彼は私を自分の元へ引き寄せた。
私は後ろから抱き抱えられたような形になった。
衣擦れの音がする。

彼は服の上から私の身体に手を滑らせる。
彼が触れるところはすべて感覚過敏になっていて、どの場所でも感じ方に変わりはなかった。

彼は後ろから私の右耳にささやいた。
「いつまでもこのままですよ。」

いじわるなことを言っているのにその手の動きはすごく優しい。

彼は私の背中に手を起き、横にさせた。
私は苦しさが少し和らぐ。
瞬時に手に当たったブランケットを腰に巻いた。

彼は私の肩に口を付けた。
そしてその口は移動して今度は首についた。

私は首が弱い。
そんなところを刺激されている私を彼には見られたくなかった。

でもどうして彼に見られたくないのだろう。
私は彼のことが好きでたまらないのに。
私は、本当は彼に『私のことを知られたくない』のだろうか。

そんなことを考えているから彼が思考の邪魔をしてきた。
さきほどよりも強い力で首を『吸っている』のだ。

ああ、だめ、いけない。

私は身をよじった。
何も考えられない。
考えなきゃいけないのに。

私は今、とてつもなく、彼が『欲しい。』

私にはほとんどこのような経験がないけれど、頭の中がその考えで支配されてしまいそうだった。
いや、もうそのことしか考えていないかもしれない。

私はつらそうな顔で彼を見つめ返した。
矛盾しているのは分かっているけど、この気持ちが彼に知られるのは嫌だと思った。

彼は満足そうに、かすかに口をゆがめて私を見つめる。
彼の手は私への攻撃を進めていく。
彼が私の胸を触ったとき、私は心臓の音が彼に聞こえてしまうのではないかと大変焦った。

彼はゆっくり胸を撫でた。
『そういうところ』にはあえて触らない。

咳込んでいる子どもに母親が薬を塗るように優しく撫でていた。
それはいやらしさなど感じさせなかった。

彼は私を優しく扱い、私が痛いことは絶対にしなかった。

彼は少し下がって、胸にも口付けをしてくれた。口にしてくれたような優しく触れるような感触だ。

私は胸がいっぱいになり、彼が愛おしく思えて、右手で彼の髪を優しく撫でた。
ここでも彼は私の服を脱がせるようなことはしなかった。

もしかしたら彼は私が「脱がせて欲しい」というまでじわじわと攻め続けるつもりなのかもしれない。

そちらの方がより私に負担がかかる行動だ。
彼は優しいようで優しくない。

それは『最初』から分かっていたことなのに。

私が思っていることが伝わったのか、彼は私を見てかすかに笑った。

彼は自分の手を私の顔に近付けると頬の柔らかさを確かめるように優しく親指で撫でた。

彼は私のことを愛おしそうに触っているように『見える。』
『本当』はどう思っているかは分からない。

私はシーツを首の位置までひっぱり、彼の行動を中断させ、上目遣いで彼を見る。

「~さんを信じていいのでしょうか。」

私は彼の目を見て、彼にも自分にも、ゆっくり言い聞かせるように言った。

「…」

彼は一瞬沈黙したかと思うと、

「どうでしょうか。」

彼は挑戦的な目で、私の目を改めて見つめ直した。
彼は言っていることと、していることが一致していない。
それは『こういう場面』でもそうなのか、と思った。

彼は私を覆うシーツを剥がすと、私の腰に手を当てて、自分に引き寄せた。

そしてラストスパートと言わんばかりに私を攻め立てようとした。

「いや!」
「!」
彼は本当に止めてくれた。
私は泣き出してしまった。

「怖かった。だからいやだったの。」
私は泣きながらも彼を見て訴えた。

そう、彼の意図が明確でないまま進められていて目的地も分からず怖かったのだ。

「自分で望んだのに?」
彼は一瞬だけ悲しそうな顔をして私を見つめた。

私は戸惑った。
これはわたしが望んだの?
望んだことなの?

私は彼女の小説とドールになった理想の彼を思い出した。

「いや!」
私は頭を抱えて首を振り、必死に否定した。
さらに涙が溢れた。

目の前の彼はどうなんだろう。
つらくないのだろうか。

顔を上げて彼を真っ直ぐ見た。
「~さんは嫌じゃないの?」
私は彼に対して思わず敬語を外してしまった。
私は手を伸ばし、彼の顔を両手で包んだ。

彼は私を抱きしめて言った。

「嫌じゃない」

そこで私は目が覚めた。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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