再会
文字数 1,169文字
その日は梅雨に入って2週間経ち、すべて湿気でべたついている時期だった。
私は自分宛の荷物が別のオフィスに届いているので取りに行くよう連絡がきた。
荷物は両手に抱えて5キロもあるし、場所は歩いて20分はかかるだるい仕事だった。
朝出荷室から連絡があって忘れてしまったあと放って置いたら夕方頃また電話。
さすがに取りに行かなければと急ぎその場所へ向かった。
場所もいまいち分からず、親しい社員に電話で道案内される。
合っているのかどうか分からないまま、お怒りの作業員におそるおそる荷物を受け取り思っているよりずっしり重い荷物ととぼとぼ帰り道。
私は暗い顔でエレベーターの前へ歩いていった。
(この場所はまともに来るの5年ぶりくらいかな)
(重いなー。台車を持ってくれば良かったかな)
心の中でつぶやいていると、視線を感じた。
彼はクリーンルームに入るための洋服を入れるバッグを持った男性だった。
コロナ禍も下火になって社内ではマスク着用が自由化されており、彼はマスクをしていなかった。
彼は目を見開いて私を見ていた。
私は彼の顔をしばらく見つめた。
心の中もしばらく無言だった。
そのうちざわざわと心が波立ってきて、もしかしたら?まさか?を繰り返した。
彼を見ていたら彼はかすかに微笑んだ気がする。
たぶんこの人はあの『彼』だ。
妙な確信があった。
「あの…」と言いながら私は少しずつ彼に近付いていった。
「~さんですか?」と震える声で聞いて、彼の目を深々と見た。
彼は否定も肯定もしないで苦笑いをしていた。
私はまだ信じられなかったが社会人としての定型文「いつも大変お世話になっております」を述べるのを忘れなかった。
「こんなところまで…」と彼は言った。
確かにここは私のホームからは遠い。
私は彼はこんな顔だったっけ?こんな声だったっけ?と頭がフル回転と混乱の繰り返しだった。
彼は他にも何か話しかけていたと思うが混乱状態の私は「受け止めきれない、受け止めきれない」と二回唱えると荷物に顔を埋めてしまった。
彼に取ったら疑問でいっぱいだっただろう。
そして彼が呼び止めたエレベーターに乗ると、私は焦って誤った階のボタンを押すように彼に言ってしまった。キャンセルが出来ないタイプのエレベーターだから何度も彼に謝罪して自分のまぬけを呪った。
このあとはふたりで話せると思いきや若い女の子が三人入ってきていっそう空気が薄くなり苦しくなってきた。
彼はやれやれのような顔で扉と反対側の壁に背中をもたれかけて到着を待っていた。
私はまじまじと彼の横顔を見て彼が美しい流し目と鼻筋の持ち主だったことを思いだした。
目的の階についたとき、私はてっきり重い荷物を持った私が大きな扉を開くのを彼が手伝ってくれるのかと思いきや彼はすたすたと自分の持ち場へ移動していったので、彼らしいなあと思い私も自分の荷物の行き先へ急いだ。
私は自分宛の荷物が別のオフィスに届いているので取りに行くよう連絡がきた。
荷物は両手に抱えて5キロもあるし、場所は歩いて20分はかかるだるい仕事だった。
朝出荷室から連絡があって忘れてしまったあと放って置いたら夕方頃また電話。
さすがに取りに行かなければと急ぎその場所へ向かった。
場所もいまいち分からず、親しい社員に電話で道案内される。
合っているのかどうか分からないまま、お怒りの作業員におそるおそる荷物を受け取り思っているよりずっしり重い荷物ととぼとぼ帰り道。
私は暗い顔でエレベーターの前へ歩いていった。
(この場所はまともに来るの5年ぶりくらいかな)
(重いなー。台車を持ってくれば良かったかな)
心の中でつぶやいていると、視線を感じた。
彼はクリーンルームに入るための洋服を入れるバッグを持った男性だった。
コロナ禍も下火になって社内ではマスク着用が自由化されており、彼はマスクをしていなかった。
彼は目を見開いて私を見ていた。
私は彼の顔をしばらく見つめた。
心の中もしばらく無言だった。
そのうちざわざわと心が波立ってきて、もしかしたら?まさか?を繰り返した。
彼を見ていたら彼はかすかに微笑んだ気がする。
たぶんこの人はあの『彼』だ。
妙な確信があった。
「あの…」と言いながら私は少しずつ彼に近付いていった。
「~さんですか?」と震える声で聞いて、彼の目を深々と見た。
彼は否定も肯定もしないで苦笑いをしていた。
私はまだ信じられなかったが社会人としての定型文「いつも大変お世話になっております」を述べるのを忘れなかった。
「こんなところまで…」と彼は言った。
確かにここは私のホームからは遠い。
私は彼はこんな顔だったっけ?こんな声だったっけ?と頭がフル回転と混乱の繰り返しだった。
彼は他にも何か話しかけていたと思うが混乱状態の私は「受け止めきれない、受け止めきれない」と二回唱えると荷物に顔を埋めてしまった。
彼に取ったら疑問でいっぱいだっただろう。
そして彼が呼び止めたエレベーターに乗ると、私は焦って誤った階のボタンを押すように彼に言ってしまった。キャンセルが出来ないタイプのエレベーターだから何度も彼に謝罪して自分のまぬけを呪った。
このあとはふたりで話せると思いきや若い女の子が三人入ってきていっそう空気が薄くなり苦しくなってきた。
彼はやれやれのような顔で扉と反対側の壁に背中をもたれかけて到着を待っていた。
私はまじまじと彼の横顔を見て彼が美しい流し目と鼻筋の持ち主だったことを思いだした。
目的の階についたとき、私はてっきり重い荷物を持った私が大きな扉を開くのを彼が手伝ってくれるのかと思いきや彼はすたすたと自分の持ち場へ移動していったので、彼らしいなあと思い私も自分の荷物の行き先へ急いだ。