ヘッドセットの選定

文字数 1,020文字

私はその日、課内のシステム担当者からせっつかれていた。

「~さん、システム予算がキャンセルされてしまうので早く選定してください!予算は1万円ですよ!」

私はその時期Web会議に出席することがときたまあり、よさそうなヘッドセットを選べないことで悩んでいた。
自分で買ってみるも音質が悪かったり、すぐ壊れたり。
それで、会社の備品として購入してもらおうと考えた。
システム部が選んでくれるものに間違いはないはずだし。
システム予算は30万以下のシステム系の備品やソフト、機器の購入に使える予算で半年に一度募集がかかる。
私は上期予算に応募したがシステム部からは「選定は自分でしてください」と跳ね返されてしまい途方に暮れていた。
毎日価格比較サイトで検索しては諦めて、さらに数日立った。1週間、1ヶ月。
そしてキャンセル期限が迫り、指摘を受けてしまった。

例の私たち担当のヘルプデスク、彼の元同僚に聞いてみると…
「資材システムのIDを取得して、他の課の発注履歴を参考にしてください」
という冷たい返事。

(ヘッドセットが社内中に何個あると思っているんだ…)
(間に合わないかもしれない。キャンセルするか。)
(………)

私は文字の彼に聞いてみることにした。このタイプの質問をするのは初めてで、答えが返って来るかは分からなかった。

「~さん、ご無沙汰しております。~課の~です。お元気でいらっしゃいますか。
今日はいつもと違うお願いです。タイトルにもあるように私は今Webミーティング用のヘッドセットを探しているのですが、どれを選んだらよいか種類がたくさんありすぎて困っています。
何か参考になる情報があれば教えていただけないでしょうか。予算は1万円で、今のところゲームでも使用できるものであれば問題ないだろうという観点からゲーミング用のリストを見ています。」

彼からは少し時間が経った後に返事が返ってきた。
「システム備品の発注履歴を調べたところ、こちらの担当課長が使用しているヘッドセットの記録がありましたので送ります。」

システム部の方が選ばれている商品なら安心だし、何より3,000円台と安かったのもあってシステム担当者さんも喜んでくれた。

「選定ありがとうございました。システム部の方が選ばれている商品なら安心です。」

彼からはそれ以降返信はなかったが、私の心は満たされていた。

(文字の彼、頼れるし、とてもやさしい…)

私は『文字の彼』に対する期待値がどんどん上昇することを感じていた。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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