カフェオレ派の彼 Rev1

文字数 1,019文字

私は彼が『王子様』として助けてくれたその後のことを思い出していた。

私と彼は同じタイミングでクリーンルームを出たが、彼は先にさっさと自分のオフィスに戻ってしまった。

(あれ、てっきり一緒に戻るのかと思った。)

なんとなく彼が気になり、特に用もないのに彼の後ろをついて行き、彼の書いた接続図をメーカーに渡していいかどうか無理やり話題を作って話しかけたが、彼は嫌そうだった。

彼に「お先にどうぞ」と道を譲られたとき、拒絶されたようで少し悲しかった。
私は断って彼と一緒に歩くことにしたが、話すことがないことに気付き、無言で彼と一緒にオフィスまで戻った。
いたたまれない時間だったし、後から戻れば良かったと後悔した。
本当に失敗したと思った。

その後、彼は私と打ち解けるようになったが、この出来事が決定的だったかは分からない。

(でも、さっき、「~さんと話すのは楽しい」とはっきり言ってたし…あの出来事くらいしか長い時間の接触はないはずなんだけど…)

私は意識をテストプレイに戻す。

ソフトウェアの最終確認作業を彼と一緒にしている上で、気付いたことがある。
それは彼がいつも同じ種類のカフェオレを飲んでいることと、変わった形のマウスを使っていること、美しい指の持ち主であること、そして彼が何かプログラムを書いていることだ。
おそらくそれは私の身近にあるExcel VBAであると睨んだ私は次に話題にするとしたらこれかもしれないと横目に観察した。

その後、彼と本当に関わる機会がなくなった。
そこで我慢できなくなった私は彼に電話をしてみた。
「ヘルプデスクは『何でも』頼んでいいんですよね?」
彼の反応はない。
『いける』
よく分からないけどいけると思った。
私は一瞬にやりとしながら、すぐ現実に戻り困った声で彼に助けを求めた。
「作成者がいなくなってしまったExcelマクロのメンテナンスはできますか?」
彼は一瞬絶句して、何か発言していたのだけど私は覚えていない。とりあえず許可とも取れる言質をもらった気がする。

私は彼にマクロの原紙をメールで送り、簡易的な発注書も書き送った。
彼は7つの希望のうち3つはすぐに出来、2つは時間がかかり、もう2つは難しいかもしれないとすぐに返事を寄越した。
私はマクロのメンテナンスのことは誰にも言いたくないとかそれっぽい言い訳をいって、彼を独占しようと思った。

性別がなんであれ、秘密の共有は二人の距離を近付ける。

ここから彼と私の個人メールの関係が始まった。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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