彼の意図

文字数 691文字

「エレベーター前で会ったときは、装置を担当している~課の~課長補佐と合流する途中でした。」

彼はなぜ一般的な内容の中に、具体的な話を入れたのだろうか?

実は私はこの担当者さんとは親しくしていて、雑談ができるくらいの情報は持っていた。

(担当者さんの話を共有したいのかな?)

私は、「~さんですね!私も親しくさせていただいています。~というゲームがお好きなんですよ。」と、彼もプレイしているゲームの名前を挙げた。
最近はあまりしていないが、このゲームは私もプレイヤーなのだ。

しかし、彼からは返信が返ってこなかった。

(ちょっとふざけすぎたかな…)

(業務内容を教えてくれたことに改めて感謝し、私の業務内容も紹介しよう。)

私はこのような返信をした。
「~さん、業務内容を教えていただき、ありがとうございます。新しい職場はお忙しそうですね。興味があるか分かりませんが、私の業務も紹介させていただきます。
私は走査型電子顕微鏡を担当しており、社内外の顧客や工程異常、開発品などの分析業務をしています。
依頼者さんたちがどのようなことを知りたいのか、それを実現するにはどの方法や手段が望ましいのか、いつも考えています。」

自分のメールを読み返したとき、なんだか研修の自己紹介みたいだなと思った。
彼のようにさらっと短い文でまとめられたらいいのに。
(せっかく書いたし、送ろう!)
勇気を出して送信ボタンを押した。

このメールスレッドには、もう彼からの返信はなかった。

(調子に乗りすぎたかな…)

私は少し落ち込んだ。

でも、彼は話を広げたいわけではないのに、なぜ担当者さんの話題を出したのだろう?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み