進捗会議と『名無し』のシステム部 (3)

文字数 848文字

私は自分のサイトに戻ってから、急ぎメールを開いた。

「~さん、私は今日、開発課の進捗会議に出席しました。
そこで、担当者さんの発表で『システム部門がメーカーとの会議に参加したいと言っている』という話を聞いたのですが、もしかしてこれは、~さんのチーム、または~さんご本人の担当ですか?」

彼は時間を置かず、返事を寄越した。
「はい、そうです。この案件は自分が担当しています。今はメーカーの仕様提出待ちでこちらでは出来ることはありません。以上」

やはり関係者だった。
でもまさか彼自身が担当だったなんて。
私は鼓動が速くなるのを感じた。

私は担当者さんの発表したExcelのたった3行から『システム部門』である彼の働く様子を改めて頭に浮かべた。

あれもこれも、私が理想とする…
私が一番魅力を感じる、私の心を掴んで離さない彼の姿が見えた。

『王子様』として私を助けてくれたとき、彼は途中途中で汗を拭いながら対応してくれた。
きっと担当者さんのことも同じように『王子様』として救っているのだろう。
私は『王子様』としての『思い出の彼』を思い返していた。

あのとき一般的なことしか書いていなかったメールに
────────────────────
「エレベーター前で会ったときは、装置を担当している~課の~課長補佐と合流する途中でした。」
(参照:「お見かけしませんでしたね。」、「彼の意図」)
────────────────────
と不自然にも具体的な話を混ぜたのは、なぜだろうか?
「…私に、気付いて欲しかった?」

彼が異動してから私とは遠く離れてしまったけど、本当はずっと近くにいたのだと、暗に伝えたかったのだろうか?

どれも私のただの空想だ。
考えすぎに決まっている。

もし彼にそんなことが出来るとしたら、何十手も先を読む一流棋士のような『コミュニケーションの達人』か私の心の一部をつつく『気まぐれな小悪魔』だ。

どちらかといえば後者の方が質が悪い上に、そっちの方が現実的にありえそうだ。

私はこのメールには返信できず、このスレッドは終わった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み