いらだち Rev3

文字数 984文字

そうして彼は消えた。

ただしばらく移行期間と言うこともありあちらとこちらのオフィスを行き来していたようだ。
お昼休みに問題の解決のその後について話しかけられたこともある。
後輩は寝てるところを起こされてご立腹だったが、彼は彼女に「忘れられたくなくて」必死だったのだろうか。これは私の推測だが。

後輩に話しかけて私に話しかけるルーティーンがその日崩れた。
彼はその日後輩にだけ話しかけ、私のことは放っておいて戻ってしまった。
私は次は私の番だと思っていたから置いてけぼりとうぬぼれを感じ後輩に嫉妬と彼に失望した。
そしてその後彼が寄越したメールで私の心は折れてしまった。

「~嬢 今日は久しぶりにお会いできて嬉しかったです。」

なにこれ。
なんなのこれ。

私にはそのようなメールを送ってきたこともないのに。
関係性が薄い後輩に対して何故ここまで慣れ親しんだメールを送れるのか?

私には会えて嬉しくないの?
どういうことなのか、何が彼の中で起きたのか分からない…。
いや最初から彼の中ではそう思っていたのを私が都合のいいように自分に当てはめてただけなのかも。

ただ、メールを送られた後輩の反応は思っていたのと少し違った。
不機嫌そうな顔で、全く彼の言葉を受け取っていなかった。

「~ちゃん、~さんがお会いできて嬉しいと言ってくれたのにどうして怒ってるの?」

後輩はPC画面をうんざりするような顔で見ていた。

「~さんはひねくれていて、素直じゃない。この文章も私ではなく『他の誰か』に送られたものではないですか?」

後輩が彼の性格を語れるなんて、私の知らないところで意外と多く彼と接触していたのだろうか?

心臓が一瞬ズキリと痛んだ。

私は彼ではないけれど、なんだかその言葉がナイフのように心に刺さってしまって、やるせない気持ちになった。

(いままで感情を見せたことがない彼が、あんなにキラキラした雰囲気のメールを送るなんて。)

(私は彼の本心だと思ったけどなあ…)

後輩とはそれ以降、彼の話はしていない。
おそらくだけど、彼女は理系の男性全般と相性が悪いのかもしれない。

その後彼とメールをすることはあったが会うことは完全に無くなった。
メールだから話がうまく通じなくていらいらすることも多く、最初の頃は彼の善意とスキルをうまく受け取れていなかった。

そして彼からも少々扱いに困るな…という気配を感じていて、それが悪循環を生んでいた。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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