忘れられない彼の視線

文字数 672文字

彼の視線にまつわるエピソードが1つある。

彼が移行期間の時、定時後の帰り道に以前のオフィスに戻って来るときがあった。
私はたまたまそのとき彼にすれ違い少し立ち止まって話をしたのだ。
「あの…仕事とは関係がないのですが…」
「?」
「~というゲームはされますか?」
彼は驚きながらなぜという表情で笑って頷いた。
そのゲームはどの武器を使うのかがその人の性格が出て、印象的なゲームなのだ。
私は勢いに任せて
「~さんはどの武器を使いますか?」
と聞いてみた。
「…全部です」
と答えられてしまい、私はまた彼のことを少し知る機会が無くなってしまった。

ただ彼は興味を持ったのか私のことをしばらく見ていて、私も彼のことを見ていた。

私は何か彼に見透かされたように思えて視線を外した。

すでに暗い時間で廊下には明かりが無く暗闇に彼の表情が分かるか分からないかくらいの頃。
また彼に視線を戻すと彼はまだ私を見ていた。
しかも視線に力を込めて。

そのとき「あ、取られた」と思った。
私は全身が燃えるように熱くなりぞくぞくした。
私は視線だけでここまで心を波立たせた人を今まで知らない。
自分を保てなくなった。

「うわー、何歳なんだろう?」といたずらそうに笑うと先輩から電話が着ていてもう行かないといけないからと彼は暗闇に消えていった。

「何歳なんだろう」という言葉は重石となって私に積み重なっていった。
彼の望まない年なら除外されるのだろうか。
それならなんとかしてその期間を延ばさないと…。

と思った矢先、次の日には休憩中の彼の同僚にひょんなことから私の年齢がバレてしまったのだが。

あーあ、さよなら、私の恋。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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