異動の挨拶

文字数 569文字

月日が経ち、彼が知る前より知った後で快適な生活を送れるようになってきた。
これがこのまま続くと思っていたが、彼が異動する挨拶にやってきた。そんなと思った。
次の異動先は同じくシステム部署だがヘルプデスクではない様子、オフィスは同じ敷地内だが離れたところにあり、会うことはなさそうだと思った。

お別れなんだ。

彼はお別れをわざわざ直接会いに言いにきてくれたのだ。

彼は異動しますと言った後、私の目をしばらく見ていた。私も彼を見つめ返した。
ふたりはにらめっこのようにしばらく静かに見合っていた。

「…残念です。でも今抱えている問題は解決していただかないと」
私は冗談めかしてにこっと笑ってみた。本当は胸が痛い。

彼は何を話していたのかどのような様子だったのか、あまり思い出せない。
そのときは隣に後輩の女性も居たからその人の方を見ていたかもしれないし、本心は彼女に伝えたかったのかもしれない。
彼は「異動してからも何かあれば連絡していいですよ」と述べた。
私は「どの分野でですか?」と聞いた。
散々お願いしまくったのにいまさらだが、あまり彼に負担をかけたくないと思ったからだ。
彼は「『なんでも』です。」
彼はまた私を見て、私も彼を見つめ返した。
私からの視線は「本当に??」の意味。
彼は余裕そうに、にやにやとしていた。
しばらく見合って私は彼の言うことを信じることにした。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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