EXEファイルの中身を見るには Rev2

文字数 1,806文字

私はずっと探している人がいた。
それはこの解析アプリケーションを作った作成者だ。
年単位で探したが見つからなかった。
しかし、どうしてもエラーが発生してしまう条件があり、それを解決するための中身を修正してほしくて、その人と連絡を取りたかった。

今日もダメだった。
最後の手段は。彼か。

私はダメもとで彼にメールを書いた。

「~さん、連日すみません。このアプリケーションの作者を探しているのですが、いくら探してもみつからないのです。
EXEファイル(エグゼファイル:拡張子が.exeのファイル。ここではアプリケーションを起動するためのプログラムやアプリケーション本体のことを指している。)の中身を見ればその人の名前は書いてありますか?どのようにしたら見ることが出来ますか?」

彼からは分かってはいたけど厳しい返事。
「基本的にEXEファイルの中身は見ることが出来ません。以上、よろしくお願いします。」

「そうですよね、ありがとうございました。」
そう書くしかなかった。

ところが終わったと思ったメールスレッドに返事が来たのだ。

「ちなみに何のファイルですか? 社内作成のexeファイルですか?」

私は彼が乗り気になったのだと思い返事をした。
「画像解析用の生データを処理する用途で使用します。私は作成者に修正を依頼したいため探していますが見つかりません。作成者は社内の人で、おそらく技術系の人が趣味で作ったツールです。」

彼の次の返信は
「それでしたら~技術部に聞く方が早いですね。もしくは、~さんが趣味でイチから開発したら好きなように修正できますね。以上」

まあ、なんと冷たい!
文字の彼はいつも優しいのに…
このメールでは別人のように見えた。

このメールが届いたのは14時ごろ。
私は突き放されたような気分になり、すっかり落ち込んでしまった。

そして次の返信を出した後、彼からの返事は来なかった。
「そういわれましても、開けないなら、何から手をつけたらいいか分からないです。」

その4時間後。

気力もないのに残業なんてするから、18時も過ぎて私は頭がふらふらになっていた。
私たちの会社は始業は朝8時からで、私は毎日5時起きなのだ。

ふとメールボックスを見る。
さっきの彼のメールを見返す。

「もしくは、~さんが趣味でイチから開発したら好きなように修正できますね。」

彼の言葉は本当だろうか、いたずら心でそのように言ったのだろうか。

いつもは放置するメールだが、私は彼の本心が急に知りたくなった。
いつも教えてもらえない彼の気持ちを。

彼の言葉を引用して、私は結構攻めた返信をした。



本当ですか?それともからかっているのですか?」

3分以内に返事が返ってきて。
「もちろん本当ですよ
関係者を探す方が楽かも知れませんが、、、」

彼からその返事が来たとき、驚いた。

「本当なんだ。」

私は彼の言葉を疑うことなくそのまま受け取った。前回の返信がからかっているようなトーンだったけど、今回の返信は真剣な気がしたからだ。
彼が「もちろん」という言葉をつかっているのを初めて見た。
私の質問に即答している様子が余計に本当なのではないかと感じさせた。
私は勝手ながら今回の『攻めたメール』で彼の本心を聞き出せたのではないかと心が揺れた。

私に出来ると思って答えていたんだ。
彼はそのようなことは具体的には言ってはいない、だけどなんだか少し認められたような気分になって、褒められたような気持ちになった。

そして不思議なことに彼の返信を読んだとき、彼に頬を撫でられているイメージが湧いたのだ。

それは理想の彼の幻想でなく、彼が一瞬私の前に表れてそのようにしたのではないかという気になった。

彼はまた予想もしない展開に私を連れて行こうとしているのだろうか。
それは彼のただの気まぐれか非公式の指導員としての気遣いか。

私は彼のメールにたくさんの情報を返事したかった。
私のスキルアップの実績について今まで彼からフィードバックされたことがないけど、前に進んでいると信じてくれていたことが嬉しかったから。

とても嬉しかった。
それを伝えたいと思った。

でも…

でも私は長々と書くのをやめ、文章をすべて削除した。
疲れているからではない。
いや、それもあるけど。

私が彼の言葉を受け取ったことを示すにはこの言葉だけでいいからだ。

「本当だったんですね。」

彼はもう、返事をしなかった。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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