文字の彼 ─ その言葉は、『定型文』? Rev3

文字数 846文字

また彼との記憶を思い出した。

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私はまだ信じられなかったが社会人としての定型文「いつも大変お世話になっております」を述べるのを忘れなかった。
(参照:再会)
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彼と二年ぶりに、『私が本来いるはずのない建物内のエレベーター前』で再会したとき、私は「いつもお世話になっております。」と思わず挨拶した。

しかし、決してテンプレートではなく、実際本当に大変お世話になっていたのである。
私はそのときに感謝の気持ちを言えなかったことをひどく後悔し始めた。

(変な人だと思われるけど、メールを書こう…。)

私は彼に返信をした。
「こんにちは、先ほど言い忘れていたので付け加えさせてください。
私が『いつもお世話になっております。』と言ったのは、決してお決まりの挨拶でなく、~さんのご指導のおかげで私のリスキリングのスキルが上がっており、VBAが少し分かるようになってきました。本当にありがとうございます。そう言いたかったんです。
たぶん次にすれ違うときに台詞を忘れてしまうと思うから。全部、書きました。よろしくお願いします。」

待った記憶もないうちに、彼から返信がきた。
「お役に立てて、幸いです。以上、よろしくお願いします。」

たった一行。
しかも定型文。

「え?それだけ?」
私は拍子抜けした。

(でも…)
(私はこのメール…)

『定型文』ではない気がした。
根拠もないけど、なんとなく。

急ぎのメールでないのにすごく返事がはやいもの。
ちゃんと読んだよって言ってもらったような気持ちになる。
(参照:メールに隠されたメッセージ)

ただの『定型文』なのに温かい気持ちになる。

(包まれているみたい。)


彼はこのメールを書いているとき、いつものお気に入りのカフェオレを飲んでいたのだろうか?
(参照:カフェオレ派の彼)

過去に彼は、プログラムは動かさなくても「見れば分かる」と言っていた。
それと同じように人の心も「見れば分かる」のだろうか。

(私の心も…)

考えが尽きない。

彼に、会いたい…
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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