斬鬼鍾馗の繭【第四話】

文字数 1,216文字






「いるだろ、そりゃ。魔法少女だろ。いるいる。いるって」
「馬鹿か、柵山。軽く答えてるんじゃねーぞ。おまえの頭はニチアサか」
「日曜日の朝のアニメ……通称ニチアサ。詳しいもんですなぁ、足利」
「うっせ。魔法少女はみんなのこころのなかにいるんだよ、必ずな!」
「ほぅ。おまえの赤髪坊主も魔法少女的な願望からか? 契約するとおまえのバスケを助けてくれるのか、魔法少女は」
「殺すぞ」
「言っとくがな、パンクは魔法少女と親和性があるぞ」
「うぜえ。うぜぇよ、柵山」


 余計なこと、言わなきゃよかった。魔法少女が空から降ってきた話なんて。

 柵山と足利は、漫才のように掛け合いをしている。
 もうここから出ていこう、と僕が思って腰を上げたとき、足利が言った。

「警備員やってるとさぁ、たまに『あり得ない出来事』と遭遇するんだよな」

「あり得ない出来事?」
 僕は首を傾げた。
「そう。具体的な出来事を言うのは避けるけどさ、あるんだよ、超常現象っぽい奴」
 足利に続いて、柵山も言う。
「都市伝説ってあるじゃん。フォークロア。ああいうのって、マジであるんだよな」
 僕は頭の上にはてなマークを出す。
 柵山は深いため息を吐くと、こう言った。
「人間の想像力なんて大抵は貧困なもんで、現実はその上を行くんだ。警備員をやって路上にいると、本当にあり得ない出来事がぽんぽんと起こる」
 足利も同調する。
「みんなも知ってるんだよ、ほとんどのことは〈起こりえる〉ってことを、よぉ」

 僕は素直に二人に言う。
「二人がそんな風に言うなんて思わなかった。否定して終わりだと思った。でも、あるんだね、二人は、『フォークロア』に遭ったことが」

 二人は口を揃えて言う。
「そりゃ、あるさ!」

 確かに。僕の場合、見渡す限り砂地でなにもない場所に連れていかれて、そこで一日中、警備をやったことがある。
 なにもないのに、地下に管を通す作業をする、その警備だ。
 東京にも、見渡す限りなにもない土地があるのにもびっくりしたけど、そこは『有事の際』には『核シェルター』になる場所だったらしい。
 マンガとしか思えないが、納得のいくものでもあった。
 そういうことは、結構ある。
 柵山と足利が言っているのはたぶん、僕とは違う〈出来事〉なのだろう。でも、感覚的には納得できる。
 そういうことは、結構あるのだ、確実に。

 僕の脳裏に、あの友人の顔が、うっすらと浮かび上がる。
 探偵事務所を構える、名探偵にして、陰陽師でもある、あの男……蘆屋アシェラ、という男の顔が。
 日常を越えたその先に生きる……そんな男。


「魔法少女と、向き合う必要がありそうだ」
 僕は柵山と足利の2人に「ありがとう」と頭を下げてから、警備会社事務所をあとにする。
 二人は、
「頑張ってなー」
 と、僕に手を振ってから、パズルゲームのプレイに戻った。


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登場人物紹介

蘆屋アシェラ

   蘆屋探偵事務所の探偵であり、陰陽師。

成瀬川るるせ

   警備員。

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