鵺の鳴く夜に蜘蛛の網目【第二話】
文字数 2,295文字
☆
「手を挙げろ!」
レジから盗んだ札束を入れたバッグを片手に持ち、片手にマカロフというピストルを持って脅す強盗。
つけた覆面はプロレスラーのつけている奴のレプリカだ。
「警察に通報するとか、バカな真似はよせよ!」
かぷりこは囁き声で僕に言う。
「検挙率の高さと白昼堂々だ、というのを考えて、こんな喫茶店の金を持って逃走なんて、あの覆面野郎、絶対バカだろ」
僕も囁き返す。
「それは言うなって。発砲されたらたまったもんじゃない。おとなしくしていよう」
強盗の覆面が、こっちを振り向く。マカロフの銃口を僕に向ける。
「おとなしくしろっつったよなぁッッッ」
「ヤベ。逆鱗に触れた」
発砲音。僕に向けて強盗はマカロフを撃った。僕のいるテーブルの上のノートパソコンが破壊された。
酷い。バックアップ取ってなかったのに……。
「おい、ガキ。てめぇ、気に食わねぇ」
かぷりこは笑いをかみ殺す。
「るるせ。お前、犯人に狙われたな。笑える」
「笑えないよ」
そこにまた発砲音。店内の窓が破壊され、ガラスの割れる音が響く。
割れた窓から、風が吹き込んでくる。
暑さからくる、ぬるい風が。
「殺す」
まっすぐ僕の方へと銃口を向けながら歩いてくる強盗。
「逃げなくていいんですかぁ。そのうち警察来ますよぉ」
僕も僕で挑発してみた。
「うっせ!」
マカロフの弾を僕に当てるために、立ち止まって狙いを定めだす強盗。
その手はぷるぷる震えている。
でも、至近距離といえるし……。
「あ、これ、死んだかも。僕」
「ご愁傷様」
「かぷりこ、冷たいな」
「冷たいのが嫌なら、死んで地獄へ行ったらホットウーロンでも飲んでろ」
「黙れっつってんだろ!」
僕らの会話に激怒して声を荒げる強盗。
緊張が走るその瞬間。
〈苺屋キッチン〉の自動ドアが開く。ドアオープン時のゆるゆるで短いBGMが流れた。
入ってきたのは、さっき話題に出た鴉坂つばめちゃんだった。
店内をきょろきょろ見回して、僕とかぷりこの姿を見つける。
「かぷりこー。来たぽよ」
場の空気を読まず、意味不明な語尾で、つばめちゃんはこっちを見ながら手を振った。
「ああ、ヤバい」
ヤバいと言いつつ、僕は気が抜けて、顔がほころんでしまう。
一方の強盗は、逆上した。
「殺すぞ、ロリータ服のバカがッ! 死ね!」
パンッッッ!
発砲音が響いた。
発砲音と同時に、強盗の腹部から血が噴いた。
「なッ!」
唖然とする強盗。と、言っても覆面をつけているから表情はわからないが。
腹部からの出血に、強盗は気が動転しているようだ。
つばめちゃんはゆっくり近づいてくる。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉぉおお」
痛みを紛らすよう叫びながら、強盗はマカロフを撃つ。
自分に銃弾が当たる。
「はぁ? ぐおおおおおおお」
また一発撃つが、やはり跳ね返ってきたかのように自分に被弾する。
歯を食いしばり、あきらめず、撃つ。
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああ」
強盗は三発連続でマカロフを撃ったことになる。
強盗の身体に三発の銃創ができ、それぞれから血が飛び出る。
「うがっごはっ! ははは……? 嘘……だろ?」
銃弾を最初に受けた腹部に手を当て、それからゆっくりとその手を顔の近くに持ってくる強盗。
覆面の顔が左右に揺れる。掌には自分の血液がべったりついているのを確認して。
「うひ」
息を漏らして。
俯けに倒れる覆面強盗だった。
一方のつばめちゃんは余裕の表情で、両手を腰にあてて、
「ご苦労様。そして、残念でしたー」
と、強盗に言った。もう、強盗は意識が飛んで、聞こえてはいないと思うけれども。
つかつかと足音響かせ強盗の前まで来ると、つばめちゃんはその倒れている強盗の後頭部を思い切り足で踏みつけた。
「あはっ」
つばめちゃんは満足そうに微笑んだ。
何度も何度も、がつがつ踏みつける。
店内にはしばしの沈黙が訪れ、パトカーが到着し、救急車も来た。
てんやわんやなので、かぷりこは警察のひとと話をするために、店の奥へ消えた。
「つばめちゃん。さっきのアレは?」
つばめちゃんはくすくすと笑う。
「なにって。わたしは魔法少女結社・八咫烏のメンバーよ? 魔法に決まってるじゃない」
「ご都合主義のごとく、ピストルの弾を弾いてたけど。それも反射させて相手に銃弾が当たったし」
「ご都合主義じゃないわよ。八咫烏は、〈日本の盾〉になっている組織なのです。〈盾〉の術式は、メンバーにはみんな標準で実装されてるわ」
「はぁ。そんなもんなのか、魔法って。すごいね」
「魔法は邪法じゃない! だから、身を守るときや誰かを守るときに、オートスキルとして盾の術式は発動する」
「魔法は邪法じゃない、か……」
「それを言ったらあの探偵陰陽師も同じようなもんでしょ」
「確かに。アシェラさんも、そうだ。式神も使役するし」
「ああ、そうそう。珍しくアパートのるるせの部屋の前に来て呼び鈴鳴らしたりノックしてたわよ、あの探偵」
「え? それは珍しい。なにがあったのかな」
「なにかを紙袋に入れて手で持ってたわよ。それを伝えに来てあげたんだからね! わたしに感謝しなさいよ!」
「へぇ。なんだろ。戻ろうかな」
「事情聴取が終わったら、になるだろうけどねー」
「……魔法の術式なんて、どう説明すりゃいいんだ?」
「さぁね。自分で考えなさいな」
「手を挙げろ!」
レジから盗んだ札束を入れたバッグを片手に持ち、片手にマカロフというピストルを持って脅す強盗。
つけた覆面はプロレスラーのつけている奴のレプリカだ。
「警察に通報するとか、バカな真似はよせよ!」
かぷりこは囁き声で僕に言う。
「検挙率の高さと白昼堂々だ、というのを考えて、こんな喫茶店の金を持って逃走なんて、あの覆面野郎、絶対バカだろ」
僕も囁き返す。
「それは言うなって。発砲されたらたまったもんじゃない。おとなしくしていよう」
強盗の覆面が、こっちを振り向く。マカロフの銃口を僕に向ける。
「おとなしくしろっつったよなぁッッッ」
「ヤベ。逆鱗に触れた」
発砲音。僕に向けて強盗はマカロフを撃った。僕のいるテーブルの上のノートパソコンが破壊された。
酷い。バックアップ取ってなかったのに……。
「おい、ガキ。てめぇ、気に食わねぇ」
かぷりこは笑いをかみ殺す。
「るるせ。お前、犯人に狙われたな。笑える」
「笑えないよ」
そこにまた発砲音。店内の窓が破壊され、ガラスの割れる音が響く。
割れた窓から、風が吹き込んでくる。
暑さからくる、ぬるい風が。
「殺す」
まっすぐ僕の方へと銃口を向けながら歩いてくる強盗。
「逃げなくていいんですかぁ。そのうち警察来ますよぉ」
僕も僕で挑発してみた。
「うっせ!」
マカロフの弾を僕に当てるために、立ち止まって狙いを定めだす強盗。
その手はぷるぷる震えている。
でも、至近距離といえるし……。
「あ、これ、死んだかも。僕」
「ご愁傷様」
「かぷりこ、冷たいな」
「冷たいのが嫌なら、死んで地獄へ行ったらホットウーロンでも飲んでろ」
「黙れっつってんだろ!」
僕らの会話に激怒して声を荒げる強盗。
緊張が走るその瞬間。
〈苺屋キッチン〉の自動ドアが開く。ドアオープン時のゆるゆるで短いBGMが流れた。
入ってきたのは、さっき話題に出た鴉坂つばめちゃんだった。
店内をきょろきょろ見回して、僕とかぷりこの姿を見つける。
「かぷりこー。来たぽよ」
場の空気を読まず、意味不明な語尾で、つばめちゃんはこっちを見ながら手を振った。
「ああ、ヤバい」
ヤバいと言いつつ、僕は気が抜けて、顔がほころんでしまう。
一方の強盗は、逆上した。
「殺すぞ、ロリータ服のバカがッ! 死ね!」
パンッッッ!
発砲音が響いた。
発砲音と同時に、強盗の腹部から血が噴いた。
「なッ!」
唖然とする強盗。と、言っても覆面をつけているから表情はわからないが。
腹部からの出血に、強盗は気が動転しているようだ。
つばめちゃんはゆっくり近づいてくる。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉぉおお」
痛みを紛らすよう叫びながら、強盗はマカロフを撃つ。
自分に銃弾が当たる。
「はぁ? ぐおおおおおおお」
また一発撃つが、やはり跳ね返ってきたかのように自分に被弾する。
歯を食いしばり、あきらめず、撃つ。
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああ」
強盗は三発連続でマカロフを撃ったことになる。
強盗の身体に三発の銃創ができ、それぞれから血が飛び出る。
「うがっごはっ! ははは……? 嘘……だろ?」
銃弾を最初に受けた腹部に手を当て、それからゆっくりとその手を顔の近くに持ってくる強盗。
覆面の顔が左右に揺れる。掌には自分の血液がべったりついているのを確認して。
「うひ」
息を漏らして。
俯けに倒れる覆面強盗だった。
一方のつばめちゃんは余裕の表情で、両手を腰にあてて、
「ご苦労様。そして、残念でしたー」
と、強盗に言った。もう、強盗は意識が飛んで、聞こえてはいないと思うけれども。
つかつかと足音響かせ強盗の前まで来ると、つばめちゃんはその倒れている強盗の後頭部を思い切り足で踏みつけた。
「あはっ」
つばめちゃんは満足そうに微笑んだ。
何度も何度も、がつがつ踏みつける。
店内にはしばしの沈黙が訪れ、パトカーが到着し、救急車も来た。
てんやわんやなので、かぷりこは警察のひとと話をするために、店の奥へ消えた。
「つばめちゃん。さっきのアレは?」
つばめちゃんはくすくすと笑う。
「なにって。わたしは魔法少女結社・八咫烏のメンバーよ? 魔法に決まってるじゃない」
「ご都合主義のごとく、ピストルの弾を弾いてたけど。それも反射させて相手に銃弾が当たったし」
「ご都合主義じゃないわよ。八咫烏は、〈日本の盾〉になっている組織なのです。〈盾〉の術式は、メンバーにはみんな標準で実装されてるわ」
「はぁ。そんなもんなのか、魔法って。すごいね」
「魔法は邪法じゃない! だから、身を守るときや誰かを守るときに、オートスキルとして盾の術式は発動する」
「魔法は邪法じゃない、か……」
「それを言ったらあの探偵陰陽師も同じようなもんでしょ」
「確かに。アシェラさんも、そうだ。式神も使役するし」
「ああ、そうそう。珍しくアパートのるるせの部屋の前に来て呼び鈴鳴らしたりノックしてたわよ、あの探偵」
「え? それは珍しい。なにがあったのかな」
「なにかを紙袋に入れて手で持ってたわよ。それを伝えに来てあげたんだからね! わたしに感謝しなさいよ!」
「へぇ。なんだろ。戻ろうかな」
「事情聴取が終わったら、になるだろうけどねー」
「……魔法の術式なんて、どう説明すりゃいいんだ?」
「さぁね。自分で考えなさいな」