蝉丸ヶ庵は灯火暗く【第七話】
文字数 1,170文字
☆
豪徳寺、世田谷城址公園の近く、世田谷流通センター前で、僕と柵山朔太郎はタッグを組んで、片側交互通行の交通誘導をすることになった。
夕方からは雨が降って、視界が悪い中、レインコートを着ながらの仕事だ。
僕はレインコートが蒸れて、ちょっと気持ち悪くなりながら、作業にあたった。
夜八時。作業は終わった。工事を一日で終わらすため、突貫工事となった。
雨も弱かったし、作業の中断はなかった。
残業手当も出るので、僕にとっては都合は良かった。
「るるせっち。これからどーすんの? 会社に戻るか?」
「いや、僕はここらへんのことも覚えておきたいから、流通センター見てから帰るよ」
「ああ」
と、柵山が頷く。
「警備員で巡ったところのエッセイ書いてんだったな」
「そうなんだ」
「んじゃ、お先に」
柵山が工事車両の助手席に乗って帰っていく。
僕はこのへんを、歩くことにした。
黒い雲が空から雨を降らす。
「この都路を、もしも今日でてしまえばまたいつか帰るというあてもない、頼りない身の上の僕」
呟きながら暗い夜道を歩く。
「浮木のように長い年月を、この闇夜を辿るように進む。我が心は迷い、迷い雲も立ち上がって、涙を濡らす」
僕は流通センターに着いた。
流通センターを見上げながら、僕はいつかこの東京からいなくなる予感だけがした。
でも、ここからいなくなったら、僕にはなにも残らない。
くすぶり続けながら、一生を終えるだろう。
建物の隅に設置してある自動販売機でコーラを買って、プルタブを開ける。
そして、飲みながら世田谷城址公園まで、雨露にできるだけ濡れないようにレインコートを着ながら、歩く。
「つらい浮世に遭う、存在感のない僕の成れの果ての姿。知る人も知らない人も、僕の紡ぐ物語を見よ」
城址公園に、僕は入る。
「哀しくも振り捨てがたく名残惜しいこの都に、飲みこまれた僕の物語を」
公園を歩きながら、僕は呟き続ける。
「末世の月日はそれでも地に堕ちはしない。ほそい柳のような魂を雨風は梳くのに、解けはせず、かなぐり捨てる今日は僕をあさましくさせる」
僕は街灯の下で立ち止まる。
「多分にセンチメントが過ぎたな」
僕がぶつくさ独り言をしていると、公園の緑地部分の茂みから手が伸びてきて、僕を強引に引っ張った。
「うひっ」
僕は茂みの中へ、引きずり込まれてしまう。相手の手は強い力だった。
「うふふっ。久しぶりだねっ、るるせっ!」
相手に押し倒されてた。
仰向けに倒れる。
相手は両手を地面につけて覆いかぶさり、鼻先がぶつかりそうな距離まで顔を近づける。
暗い視界に目が慣れる。
相手は歪んだ嗤い顔を見せて舌なめずりをした。
……僕を押し倒した相手は、白梅春葉だった。
豪徳寺、世田谷城址公園の近く、世田谷流通センター前で、僕と柵山朔太郎はタッグを組んで、片側交互通行の交通誘導をすることになった。
夕方からは雨が降って、視界が悪い中、レインコートを着ながらの仕事だ。
僕はレインコートが蒸れて、ちょっと気持ち悪くなりながら、作業にあたった。
夜八時。作業は終わった。工事を一日で終わらすため、突貫工事となった。
雨も弱かったし、作業の中断はなかった。
残業手当も出るので、僕にとっては都合は良かった。
「るるせっち。これからどーすんの? 会社に戻るか?」
「いや、僕はここらへんのことも覚えておきたいから、流通センター見てから帰るよ」
「ああ」
と、柵山が頷く。
「警備員で巡ったところのエッセイ書いてんだったな」
「そうなんだ」
「んじゃ、お先に」
柵山が工事車両の助手席に乗って帰っていく。
僕はこのへんを、歩くことにした。
黒い雲が空から雨を降らす。
「この都路を、もしも今日でてしまえばまたいつか帰るというあてもない、頼りない身の上の僕」
呟きながら暗い夜道を歩く。
「浮木のように長い年月を、この闇夜を辿るように進む。我が心は迷い、迷い雲も立ち上がって、涙を濡らす」
僕は流通センターに着いた。
流通センターを見上げながら、僕はいつかこの東京からいなくなる予感だけがした。
でも、ここからいなくなったら、僕にはなにも残らない。
くすぶり続けながら、一生を終えるだろう。
建物の隅に設置してある自動販売機でコーラを買って、プルタブを開ける。
そして、飲みながら世田谷城址公園まで、雨露にできるだけ濡れないようにレインコートを着ながら、歩く。
「つらい浮世に遭う、存在感のない僕の成れの果ての姿。知る人も知らない人も、僕の紡ぐ物語を見よ」
城址公園に、僕は入る。
「哀しくも振り捨てがたく名残惜しいこの都に、飲みこまれた僕の物語を」
公園を歩きながら、僕は呟き続ける。
「末世の月日はそれでも地に堕ちはしない。ほそい柳のような魂を雨風は梳くのに、解けはせず、かなぐり捨てる今日は僕をあさましくさせる」
僕は街灯の下で立ち止まる。
「多分にセンチメントが過ぎたな」
僕がぶつくさ独り言をしていると、公園の緑地部分の茂みから手が伸びてきて、僕を強引に引っ張った。
「うひっ」
僕は茂みの中へ、引きずり込まれてしまう。相手の手は強い力だった。
「うふふっ。久しぶりだねっ、るるせっ!」
相手に押し倒されてた。
仰向けに倒れる。
相手は両手を地面につけて覆いかぶさり、鼻先がぶつかりそうな距離まで顔を近づける。
暗い視界に目が慣れる。
相手は歪んだ嗤い顔を見せて舌なめずりをした。
……僕を押し倒した相手は、白梅春葉だった。