斬鬼鍾馗の繭【第二話】
文字数 1,652文字
☆
最前の三本脚の八咫烏が、大きく旋回してこっちに戻ってきて、そして落下した。
ドシャァ、という音で横向きに倒れる八咫烏。
近づいてみると、八咫烏はプリズム色に発光した。まぶしくて目を手で覆う。
発光が終わったときに覆った手を退けると。
そこにはスカートがフリフリの、ピンク色のドレスを着た女の子が倒れていた。
「あれ? 鴉は……? 女の子に変わる鴉は存在するか否か。ヘンペルの鴉の命題だな」
僕はううむ、と唸ってからドレス姿の女の子に指をさした。
「これ、きっとテレビの特撮の撮影だ! 撮影に巻き込まれたんだ、僕は」
倒れていた女の子は、体を震わせながらゆっくりと起き上がる。
「見ましたね」
「え? なにを? ぱんつなら見えないよ! むしろ見たいよ!」
女の子はゆらゆらと僕に近寄ってくる。
「はぁ。そうじゃなくて。八咫烏、〈見えた〉んでしょ?」
「見た」
「ならば、この場で殺すしかなさそうね」
「はい? ぱ、ぱんつは見てないよ!」
「八咫烏はわたしたち魔法少女結社のトレードマークであり、同時に移動するときの〈魔法〉の姿よ」
僕は直感した。あ、こりゃ会話が成立しないタイプの人間だわ、と。
「魔法少女結社・八咫烏のためにも、あなたを殺すわ」
魔法少女だ、という女の子は、魔法のステッキらしきものを手に握っている。
ああ、魔法で殺すのか、と思ったら、ステッキの先端のカバーを外すと、ステッキは見事なナイフになっていた。
ナイフを構える女の子。
普通に殺害する気が満々らしい。
「いい? 今から殺すから。騒がないで?」
ベンチから飛び上がる僕、成瀬川るるせである。護身術など、持っていない。
ナイフを持ってじりじり間合いを狭めてくるドレスを着た魔法少女。
凶悪な絵ヅラだ。
「あー、待って」
「なに? 辞世の句でも詠む?」
「死ぬの前提なんだね。命乞いをしたい」
「命乞い?」
「今だ!」
僕は気を緩めた魔法少女に強引にタックルをかました。
二人重なってその場に倒れる。
僕の左手は、倒れた時に手放したナイフを、掴んでいた。
「へへ。形勢逆転……って、うげらっ!」
上半身を起こして馬乗りになった姿勢になった途端、今度は横合いから蹴りが飛んできた。
ナイフを握りながら吹き飛ぶ。
「暴行事件なんて起こさないでください、るるせお兄ちゃん!」
吹き飛んで頭を打った。痛い。
声の主の方を向くと、そこにはアパートの管理人さんの妹さんの女子高生、やくしまるななみちゃんがセーラー服姿で頬を膨らませていた。
蹴った主が管理人の家族とは。ややこしくなってきたぞ。
「助けていただき、ありがとうございます!」
立ち上がった魔法少女はまるで自分が被害者かのように、言う。
ひどい。
「わたし、やくしまるななみ。綺麗なドレスだね……。あなた、お名前は?」
「わたしは魔法少女結社・八咫烏の、鴉坂つばめって言うの……って、ああ! 結社の名前、名乗っちゃった!」
「大丈夫だよ。オフレコってことで」
「ありがとう。うふ」
魔法少女、鴉坂つばめは言う。
「じゃあ、この男を口封じに殺すか」
気づくと僕はナイフを持っていた。柄が魔法少女ステッキの。いろいろヤバめな凶器だ。
僕はナイフを放り投げると、アパートの管理人の妹さんのやくしまるななみちゃんと、魔法少女・鴉坂つばめちゃんが立ちふさがるのとは反対方向へ、猛ダッシュして逃げた。
ここで魔法少女とやらに殺されるわけにはいかないのだ。
ホームセンター・オリンピックで買ったものは、仕方ない。置いていく。ごめん、アシェラさん。
僕は住宅街へ向けて走る。
入り組んだ住宅街でなら、追っ手をまける!
ななみちゃんとつばめちゃんも僕を追いかけてくるが、僕は逃げ足だけは、速い。
魔法少女。
この現実の世界観をぶち壊しそうな存在だな、と思いながら、僕は走る。
最前の三本脚の八咫烏が、大きく旋回してこっちに戻ってきて、そして落下した。
ドシャァ、という音で横向きに倒れる八咫烏。
近づいてみると、八咫烏はプリズム色に発光した。まぶしくて目を手で覆う。
発光が終わったときに覆った手を退けると。
そこにはスカートがフリフリの、ピンク色のドレスを着た女の子が倒れていた。
「あれ? 鴉は……? 女の子に変わる鴉は存在するか否か。ヘンペルの鴉の命題だな」
僕はううむ、と唸ってからドレス姿の女の子に指をさした。
「これ、きっとテレビの特撮の撮影だ! 撮影に巻き込まれたんだ、僕は」
倒れていた女の子は、体を震わせながらゆっくりと起き上がる。
「見ましたね」
「え? なにを? ぱんつなら見えないよ! むしろ見たいよ!」
女の子はゆらゆらと僕に近寄ってくる。
「はぁ。そうじゃなくて。八咫烏、〈見えた〉んでしょ?」
「見た」
「ならば、この場で殺すしかなさそうね」
「はい? ぱ、ぱんつは見てないよ!」
「八咫烏はわたしたち魔法少女結社のトレードマークであり、同時に移動するときの〈魔法〉の姿よ」
僕は直感した。あ、こりゃ会話が成立しないタイプの人間だわ、と。
「魔法少女結社・八咫烏のためにも、あなたを殺すわ」
魔法少女だ、という女の子は、魔法のステッキらしきものを手に握っている。
ああ、魔法で殺すのか、と思ったら、ステッキの先端のカバーを外すと、ステッキは見事なナイフになっていた。
ナイフを構える女の子。
普通に殺害する気が満々らしい。
「いい? 今から殺すから。騒がないで?」
ベンチから飛び上がる僕、成瀬川るるせである。護身術など、持っていない。
ナイフを持ってじりじり間合いを狭めてくるドレスを着た魔法少女。
凶悪な絵ヅラだ。
「あー、待って」
「なに? 辞世の句でも詠む?」
「死ぬの前提なんだね。命乞いをしたい」
「命乞い?」
「今だ!」
僕は気を緩めた魔法少女に強引にタックルをかました。
二人重なってその場に倒れる。
僕の左手は、倒れた時に手放したナイフを、掴んでいた。
「へへ。形勢逆転……って、うげらっ!」
上半身を起こして馬乗りになった姿勢になった途端、今度は横合いから蹴りが飛んできた。
ナイフを握りながら吹き飛ぶ。
「暴行事件なんて起こさないでください、るるせお兄ちゃん!」
吹き飛んで頭を打った。痛い。
声の主の方を向くと、そこにはアパートの管理人さんの妹さんの女子高生、やくしまるななみちゃんがセーラー服姿で頬を膨らませていた。
蹴った主が管理人の家族とは。ややこしくなってきたぞ。
「助けていただき、ありがとうございます!」
立ち上がった魔法少女はまるで自分が被害者かのように、言う。
ひどい。
「わたし、やくしまるななみ。綺麗なドレスだね……。あなた、お名前は?」
「わたしは魔法少女結社・八咫烏の、鴉坂つばめって言うの……って、ああ! 結社の名前、名乗っちゃった!」
「大丈夫だよ。オフレコってことで」
「ありがとう。うふ」
魔法少女、鴉坂つばめは言う。
「じゃあ、この男を口封じに殺すか」
気づくと僕はナイフを持っていた。柄が魔法少女ステッキの。いろいろヤバめな凶器だ。
僕はナイフを放り投げると、アパートの管理人の妹さんのやくしまるななみちゃんと、魔法少女・鴉坂つばめちゃんが立ちふさがるのとは反対方向へ、猛ダッシュして逃げた。
ここで魔法少女とやらに殺されるわけにはいかないのだ。
ホームセンター・オリンピックで買ったものは、仕方ない。置いていく。ごめん、アシェラさん。
僕は住宅街へ向けて走る。
入り組んだ住宅街でなら、追っ手をまける!
ななみちゃんとつばめちゃんも僕を追いかけてくるが、僕は逃げ足だけは、速い。
魔法少女。
この現実の世界観をぶち壊しそうな存在だな、と思いながら、僕は走る。