斬鬼鍾馗の繭【第三話】
文字数 1,208文字
☆
ダッシュして住宅街を走り、たどり着いたのは僕がバイトしている警備会社の、事務所だった。
カギは開いているので堂々と入る。上高井戸のマンションの一室に、事務所はある。
「今日、バイト休んじゃったけどねー。でも来ちゃうんだなぁ、ここに」
入ってすぐの部屋のテレビにゲーム機をつないで、警備員の服を着ながらゲームをやっている奴らがいる。
柵山朔太郎と、足利葦人。パズルゲームを二人プレイ中のようだ。
足利が僕に気づき、振り向く。
「るるせっち、おはよ」
柵山も振り向く。
「おー、るるせっち。今日は、バイト代の前借にでも来たん?」
「いや、違うんだけどね」
僕はそう言って、畳敷きのその部屋で腰を下ろす。
それにしても。柵山も足利も二十代前半。元気で個性的過ぎる奴らである。
だが、個性を出そうとしてそうなったというよりは、自然体で、個性的なのだ。
柵山はパンクな髪形でシルバーアクセサリをじゃらじゃらさせている。
一方の足利は坊主頭を赤色に染めたスポーツマンタイプだ。
仕事よりも、趣味を大事にする連中。脱力できるときは脱力する。
なぜなら、無理なときはなにをやっても無理だからだ。
なので、〈時間をやり過ごす〉その術を、よく知っている。
「柵山も足利も、今日は仕事?」
柵山が答える。
「いや。夜勤。部屋に帰るのもだりぃし、ここにいる。足利はほぼこの事務所が家みたいなもんだし」
足利が口を膨らませる。
「柵山だって電気ガス水道止められてここに寝泊まりすること多いじゃん」
「そりゃ、ほら、おれ、パンクだしさ」
「おまえの頭の中がパンクしてるんじゃねーの」
「違いねぇ」
二人はぎゃはははは、と笑いあう。
いつもの風景だ。
奥の部屋は二つある。ひとつは寝泊まりする部屋。もうひとつが事務の部屋。
寝泊まりする部屋に入っても仕方ないので、事務の部屋に行こうと部屋を開ける。バイト代の前借でもしよう、と。
開けたら、もちろんテンプレ通り、着替え中の女子、魚取漁子さんが下着姿で、ズボンをはこうとしている最中だった。
「あ、ごめ……うげらっ!」
ぶん殴られた。ズボンをはくのをやめて下着のまま迫ってきて、頬をグーで殴られた。
柵山と足利がげらげら笑う。僕は奥の部屋から飛び出すと、ふすまを閉めた。
魚取さんは無言だった。
そして着替え終わって出てくると、僕と鼻がぶつかるんじゃないかという距離まで顔を近づけて、
「今はそこの二人以外は外出中。わたしはこれから仕事。ガス管が漏れたから、緊急の、ね」
と、魚取さんは不機嫌な声で言う。
「今度、覗いたら、ぶち殺す」
冷蔵庫に貼り付けてある自転車のカギをとると、魚取さんは事務所を出て、仕事に向かって出ていった。
笑いをかみ殺している柵山と足利。僕はなにをしているのか。自分でも情けなくなったのだった。
ダッシュして住宅街を走り、たどり着いたのは僕がバイトしている警備会社の、事務所だった。
カギは開いているので堂々と入る。上高井戸のマンションの一室に、事務所はある。
「今日、バイト休んじゃったけどねー。でも来ちゃうんだなぁ、ここに」
入ってすぐの部屋のテレビにゲーム機をつないで、警備員の服を着ながらゲームをやっている奴らがいる。
柵山朔太郎と、足利葦人。パズルゲームを二人プレイ中のようだ。
足利が僕に気づき、振り向く。
「るるせっち、おはよ」
柵山も振り向く。
「おー、るるせっち。今日は、バイト代の前借にでも来たん?」
「いや、違うんだけどね」
僕はそう言って、畳敷きのその部屋で腰を下ろす。
それにしても。柵山も足利も二十代前半。元気で個性的過ぎる奴らである。
だが、個性を出そうとしてそうなったというよりは、自然体で、個性的なのだ。
柵山はパンクな髪形でシルバーアクセサリをじゃらじゃらさせている。
一方の足利は坊主頭を赤色に染めたスポーツマンタイプだ。
仕事よりも、趣味を大事にする連中。脱力できるときは脱力する。
なぜなら、無理なときはなにをやっても無理だからだ。
なので、〈時間をやり過ごす〉その術を、よく知っている。
「柵山も足利も、今日は仕事?」
柵山が答える。
「いや。夜勤。部屋に帰るのもだりぃし、ここにいる。足利はほぼこの事務所が家みたいなもんだし」
足利が口を膨らませる。
「柵山だって電気ガス水道止められてここに寝泊まりすること多いじゃん」
「そりゃ、ほら、おれ、パンクだしさ」
「おまえの頭の中がパンクしてるんじゃねーの」
「違いねぇ」
二人はぎゃはははは、と笑いあう。
いつもの風景だ。
奥の部屋は二つある。ひとつは寝泊まりする部屋。もうひとつが事務の部屋。
寝泊まりする部屋に入っても仕方ないので、事務の部屋に行こうと部屋を開ける。バイト代の前借でもしよう、と。
開けたら、もちろんテンプレ通り、着替え中の女子、魚取漁子さんが下着姿で、ズボンをはこうとしている最中だった。
「あ、ごめ……うげらっ!」
ぶん殴られた。ズボンをはくのをやめて下着のまま迫ってきて、頬をグーで殴られた。
柵山と足利がげらげら笑う。僕は奥の部屋から飛び出すと、ふすまを閉めた。
魚取さんは無言だった。
そして着替え終わって出てくると、僕と鼻がぶつかるんじゃないかという距離まで顔を近づけて、
「今はそこの二人以外は外出中。わたしはこれから仕事。ガス管が漏れたから、緊急の、ね」
と、魚取さんは不機嫌な声で言う。
「今度、覗いたら、ぶち殺す」
冷蔵庫に貼り付けてある自転車のカギをとると、魚取さんは事務所を出て、仕事に向かって出ていった。
笑いをかみ殺している柵山と足利。僕はなにをしているのか。自分でも情けなくなったのだった。