火宅二枚絵草子【第一話】
文字数 1,846文字
庭似二把ちゃんが、
「わたしの彼氏を紹介しますよー」
と言って連れてきた男は、顔に翳りが見える神経質そうな人物だった。
二把ちゃんの前の彼氏が鼻ピアスの金髪男だったことを考えると、ひとって、どんなひととお付き合いをするのか、わからないもんだなぁ、と思うのである。
二把ちゃんは、茶髪で胸の大きな女性で、基本的にはいつもにこにこと笑顔を振りまいているので、そりゃ彼氏もすぐに見つかるってもんだ。
この二把ちゃんは僕、成瀬川るるせの通っていた高校の一歳下の後輩で、高校時代から少し親交があったのである。
それがこの前、偶然ここ、東京で出会ってメールアドレスを交換して、また親交を持つことになったというわけである。
ここは浜田山にあるカフェ〈苺屋キッチン〉。僕の行きつけのカフェだ。
僕は高井戸に住んでいるのだが、高井戸からは歩いて30分もしないで、浜田山に着く。
僕は浜田山の〈苺屋キッチン〉で、よく原稿を書いている。ウェブ小説と呼ばれる奴だ。
カフェに居座ってウェブ小説を書いていると、とても気分がいい。僕はいつもスマートフォンゲームをやっているだけではないのだ。
だが僕が書いてる小説が、人気かというと、そうではないのが悲しいところである。
ランキングのために書いているわけじゃないとはいえ、ちょっと悔しいときがある。
それはともかく、その他、ひとと話をするときに〈苺屋キッチン〉を選ぶこともある。
今日、僕は二把ちゃんとその彼氏との三人で、〈苺屋キッチン〉にいた。
二把ちゃんが紹介したいとメールをしてきたので、会ったというわけだ。
「わたしの彼氏を紹介しますよー」じゃないよ、ったく。
ウェイトレスが注文を取りに来る。
アイスコーヒーなどを注文すると、ウェイトレスが、
「るるせ。そっちにいる男女は知り合いか?」
と、ぶっきらぼうな口調で言う。
「そうだよ」
「似合わないカップルだな。それに、るるせと気が合うとは思えん」
「ってうぉい! 本人たちの前でなに言ってんの! かぷりこ、おまえ、なに考えて……」
ウェイトレスの苺屋かぷりこは不平そうな顔で、
「文句のひとつも言いたくなる。鴉坂つばめや魚取漁子と連れ立って来るときのるるせはマゾっ気丸出しで面白いが、今日はちょっと先輩風をふかしてるように見えてな」
と、男性口調で僕に言う。
「ま、ゆっくりしていってくれよ。探偵にもよろしくな」
そこまで言うと、注文票を持って、腰まで伸ばしたロングの髪を揺らしながら店内奥に消える苺屋かぷりこなのであった。
「るるせ先輩ってマゾなんですか」
「違う!」
全力で否定した。
「かぷりこの言うことは信じないほうがいい」
「かぷりこっていうんだ、あの娘。へぇー」
二把ちゃんは面白がっている。だが、その横に座っている彼氏……骸川(むくろがわ)は、微動だにしない。
それはそれで、ちょっと怖い。
「わたしたち、大学のゼミで知り合ったんですよ」
二把ちゃんが、二人が付き合った経緯を話す。
それはひどく普通で、キャンパスライフを楽しんでいる大学生のそれであり、僕は二把ちゃんの話してる内容に劣等感を覚えた。
しかし苺屋かぷりこにマゾだと思われてたんだな、僕は。違うのに。
苺屋かぷりこ。ウェイトレス。
苗字の通り、ここ、〈苺屋キッチン〉の経営主の娘であり、ここの看板娘。
ぶっきらぼうな性格なので、同じくぶっきらぼうな魚取漁子さんと気が合う女の子だ。
魚取さんは僕と同じ警備会社の警備員だ。〈苺屋キッチン〉の常連客で、僕も魚取さんに連れられてきて気に入って、ここに通うようになった。
かぷりこは東京出身なので、東京の闇でうごめくモノには、詳しい。
だから必然的に、蘆屋アシェラさんのことも、知っている。
あの陰陽師であり、探偵でもある、普段なにをしているのかさっぱり不明な彼のことを。
「るるせ先輩。骸川くんがどうしても先輩に頼みごとがあるって」
僕はまたアシェラさんに用事なんだろうなぁ、と思って頷くと、
骸川がカタカタ顔を震わせながら、
「お金、貸してほしいんです」
と、言う。
「はぁ? お金? ないけど。またなんでフリーターの僕に?」
「実は、おれに縁談が持ちあがっていて……」
ややこしいことになりそうだな。
僕はため息を吐き、頬杖をついて、カタカタ身体を震わす骸川に向き合った。
「わたしの彼氏を紹介しますよー」
と言って連れてきた男は、顔に翳りが見える神経質そうな人物だった。
二把ちゃんの前の彼氏が鼻ピアスの金髪男だったことを考えると、ひとって、どんなひととお付き合いをするのか、わからないもんだなぁ、と思うのである。
二把ちゃんは、茶髪で胸の大きな女性で、基本的にはいつもにこにこと笑顔を振りまいているので、そりゃ彼氏もすぐに見つかるってもんだ。
この二把ちゃんは僕、成瀬川るるせの通っていた高校の一歳下の後輩で、高校時代から少し親交があったのである。
それがこの前、偶然ここ、東京で出会ってメールアドレスを交換して、また親交を持つことになったというわけである。
ここは浜田山にあるカフェ〈苺屋キッチン〉。僕の行きつけのカフェだ。
僕は高井戸に住んでいるのだが、高井戸からは歩いて30分もしないで、浜田山に着く。
僕は浜田山の〈苺屋キッチン〉で、よく原稿を書いている。ウェブ小説と呼ばれる奴だ。
カフェに居座ってウェブ小説を書いていると、とても気分がいい。僕はいつもスマートフォンゲームをやっているだけではないのだ。
だが僕が書いてる小説が、人気かというと、そうではないのが悲しいところである。
ランキングのために書いているわけじゃないとはいえ、ちょっと悔しいときがある。
それはともかく、その他、ひとと話をするときに〈苺屋キッチン〉を選ぶこともある。
今日、僕は二把ちゃんとその彼氏との三人で、〈苺屋キッチン〉にいた。
二把ちゃんが紹介したいとメールをしてきたので、会ったというわけだ。
「わたしの彼氏を紹介しますよー」じゃないよ、ったく。
ウェイトレスが注文を取りに来る。
アイスコーヒーなどを注文すると、ウェイトレスが、
「るるせ。そっちにいる男女は知り合いか?」
と、ぶっきらぼうな口調で言う。
「そうだよ」
「似合わないカップルだな。それに、るるせと気が合うとは思えん」
「ってうぉい! 本人たちの前でなに言ってんの! かぷりこ、おまえ、なに考えて……」
ウェイトレスの苺屋かぷりこは不平そうな顔で、
「文句のひとつも言いたくなる。鴉坂つばめや魚取漁子と連れ立って来るときのるるせはマゾっ気丸出しで面白いが、今日はちょっと先輩風をふかしてるように見えてな」
と、男性口調で僕に言う。
「ま、ゆっくりしていってくれよ。探偵にもよろしくな」
そこまで言うと、注文票を持って、腰まで伸ばしたロングの髪を揺らしながら店内奥に消える苺屋かぷりこなのであった。
「るるせ先輩ってマゾなんですか」
「違う!」
全力で否定した。
「かぷりこの言うことは信じないほうがいい」
「かぷりこっていうんだ、あの娘。へぇー」
二把ちゃんは面白がっている。だが、その横に座っている彼氏……骸川(むくろがわ)は、微動だにしない。
それはそれで、ちょっと怖い。
「わたしたち、大学のゼミで知り合ったんですよ」
二把ちゃんが、二人が付き合った経緯を話す。
それはひどく普通で、キャンパスライフを楽しんでいる大学生のそれであり、僕は二把ちゃんの話してる内容に劣等感を覚えた。
しかし苺屋かぷりこにマゾだと思われてたんだな、僕は。違うのに。
苺屋かぷりこ。ウェイトレス。
苗字の通り、ここ、〈苺屋キッチン〉の経営主の娘であり、ここの看板娘。
ぶっきらぼうな性格なので、同じくぶっきらぼうな魚取漁子さんと気が合う女の子だ。
魚取さんは僕と同じ警備会社の警備員だ。〈苺屋キッチン〉の常連客で、僕も魚取さんに連れられてきて気に入って、ここに通うようになった。
かぷりこは東京出身なので、東京の闇でうごめくモノには、詳しい。
だから必然的に、蘆屋アシェラさんのことも、知っている。
あの陰陽師であり、探偵でもある、普段なにをしているのかさっぱり不明な彼のことを。
「るるせ先輩。骸川くんがどうしても先輩に頼みごとがあるって」
僕はまたアシェラさんに用事なんだろうなぁ、と思って頷くと、
骸川がカタカタ顔を震わせながら、
「お金、貸してほしいんです」
と、言う。
「はぁ? お金? ないけど。またなんでフリーターの僕に?」
「実は、おれに縁談が持ちあがっていて……」
ややこしいことになりそうだな。
僕はため息を吐き、頬杖をついて、カタカタ身体を震わす骸川に向き合った。