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文字数 1,285文字

 アイビーがゆっくりと正面に立った。
「お嬢さん、残念でしたね。もはやここまで……ということかな。以前は鰐十郎君を招待する過程であなたに邪魔されましたが、実を言うと彼じゃなくてもいいんですよ。あなたも研究対象なんでね。ただし、こう言っては何ですが、我々としてはなるべく穏便に事を運びたい。あなたが今回行った行動は許しがたいものですが、大人しく投降するなら、その罪には問いません。どうです? ……われわれに協力してくれますか?」
「とうとう本性を現したってところかな」
 蓮華は笑顔を浮かべながら、ツタのいましめを解こうとした。だが、それは蛇のように絡みついて容易に解けそうになかった。
「まあ、考え方はいろいろです。ですが、無駄に命を落とす必要も無いと思いますが」
 アイビーは嬉しそうに唇を歪めた。
「なるほど。勝利宣言? でも、実は追い詰められているのはアンタの方なんだけどね。少し前からスプリンクラーが止まっていることに気付いてた?」
 アイビーは怪訝な顔をして、周囲に目を向けた。
「確かに止まっているが、それがどうした?」
「鼻がついているなら、異変が解るとおもうけど……」
 あたりにはガソリンの匂いがたちこめている。自動車修理工場の跡地なのでそもそもガソリン臭いのだが、それにしても異様に濃い。
「それがどうした……ここは修理工場だからあたりまえだと思うが」
「さっき、裏に隠れた時、ガソリンが満タンになったタンクを見つけたんだよね。それを急激に気化させている」
「爆発させようってのか……だが、そんなことをしたら、お前だって……」
「あたしの能力は火を関わることすべてなんだよ。火を操るだけじゃなく、元となる可燃物を操作することもできれば、逆に火に対するセーフティーゾーンを作ることだって出来る。さて、あんたのツタがあたしをじわじわと絞め殺すか、ここを爆発させて一瞬のうちにすべて焼き払うか、どちらが早いか試してみようか」
 アイビーのニヤニヤ笑いが消えた。ゆっくりとサングラスを外すと、真っ黒になった目許が現れる。古い火傷の痕らしく、おそらく両目とも全く見えていないはずだ。
 突然イライラしたように歩き回り、周囲の物を手当たり次第にぶちまける。
「糞っ、糞っ……何なんだよ。どうしてこうなんだよ……」
 突然、何かの糸が切れたような豹変ぶりだ。
「いつも、いつも、いつも、いつも……お前ってヤツは」
「どうでもいいけど、話が聞こえたんなら、これ解いてくれるかな」
 アイビーは相変わらず狂ったように歩き回っていたが、悔しそうに周囲の物に八つ当たりしながら、両手の武器を打ち鳴らす。それを合図に、ツタが一斉にざわめき始め、蓮華の手足を拘束していた縛めがゆるゆるとほどけていく。
 その時だった、アイビーの後ろのドアがいきなりあいて、二人の女が入ってくる。頭部から血を滴らせているのは香澄で、その後ろから首を覗かせているのがマリリンだった。
「ちょいと、子ネズミが舞い込んできたから、ラチってきたよ」
 その眼には嬉々とした、また陰惨な光が宿っていた。
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