13-4

文字数 1,168文字

 香澄は女たちを連れて駐車場に行き、蓮華は急いで三階に向かった。三階は二階よりドアの数は多い。L字型の建物に沿ってベッド付きの小さな個室が並んでいるのだ。蓮華はドアを片っ端から開けていく。途中、鍵がかかっているドアがあった。鍵束は香澄に渡してしまったので、とりあえずガンガンとドアを叩く。
 ノブがカチリと音をたてるのを待って、室内に飛び込む。下着姿のロングヘアの女の子が目を丸くして立っていた。写真で見た目白アリスだった。奥のダブルベッドには縦じまのパンツを履いた、頭の半分禿げあがったデブが座っている。
「誰だ? 失礼だぞ。マリリンにことわって来たのかね?」大声で怒鳴ってから、急に相好を崩した。
「ん? もしかして……そうかわかったぞ。そういう趣向なんだな。よいよい、とりあえずこっちに来なさい」
 蓮華は玄関にあった大きな花瓶をつかむと、アリスを押しのけてベッドに歩み寄った。そして、相変わらずニコニコしているデブの頭にそれを思い切り叩きつけた。花瓶の残骸が割れ、中に入っていた茶色い液体が飛び散る。男は頭から花瓶の残骸と汚い水と血を垂れ流しながら白目を剥いた。
「こんなアホ、ほっといて、逃げるよ……」
 アリスは意味が分かったと言わんばかりに手早く服を着ると、蓮華の手をしっかり握りしめた。廊下を駆け抜け、初めに昇って来た階段を目指しながら、
「この階に他には?」
「誰もいないはず。私とあの男だけ……そう言えば」
 アリスは急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「さっきの奴、私の学校の教頭先生なのよね。顔バレしてないと思うけど、知られてたらどうしよう。退学になっちゃうのかな?」
「心配しなくていいよ。もしバレても、あいつの方がヤバイからね」
 再び走り出そうとして、蓮華は思わず足を止めた。下の階から足音が聞こえてくる。
「誰か来る……」
 足音はゆっくりと階段をあがり、そのまま二階の廊下へと移動しているようだ。蓮華は足音をたてないように階段を降り、廊下を見渡す。そこには誰も見当たらず、角を曲がって遠ざかっていく足音だけが聞こえている。その先にはマリリンのいた部屋があり、少女たちがとじこめられていた部屋がある。
 いずれにしても、蓮華たちの仲間はこの場所を知らないはずなので、足音の主はアンダーテイカーの一味ということになる。香澄たちが運悪くどこかで遭遇したとすれば、それなりに騒ぎとなるはずなので、うまくやり過ごしたのだろう。
 蓮華はまだ三階にいるアリスを手招きで呼んだ。
「このまま駐車場に行きな。仲間たちが待っているはずだから、車に乗って警察に保護を求めるんだ。いいね……」
 アリスは何か聞きたそうだったが、蓮華に促されてそのまま忍び足で階段を降りて行った。その華奢な背中にはまだ少女の面影があった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み