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文字数 1,260文字

 山高帽の二人が前に出てくる。その静かな足の運びを見て鰐十郎の血液が沸騰した。
 ――こいつら、唯者じゃあねえ。
 どういうジャンルかは全く分からないが、相当修羅場をくぐっている気配がする。いわゆるアサシン・暗殺者の気配だ。
二人は奇妙に体をくねらせながら次第に距離を詰めてくる。
先がノッポで後がデブだ。二人がかりの攻撃ではよくある手だ。案の定、射程距離に入った途端一気に距離を縮めノッポは飛び上がり、デブはそのまま突進して来た。鰐十郎は後方に回転してそのタイミングをずらす。そして、その反動を利用して反撃だ。突進して来たデブに強烈な前蹴りを突き刺し、地上に舞い降りた直後のノッポの顔面に正拳を叩きこむ。
 そんなイメージだったが、デブのボディは予想以上に硬かった。まるで鉄球だ。おまけに体勢を崩しているノッポの姿が一瞬視界から消え、気付いた時は意表を突いた横から攻撃を受けた。紙一重でかわして、体勢を整える。相手の二人はすでに次の攻撃の構えに入っている。息一つ切らしていない。
 ――面白ぇ。
 鰐十郎の心臓がドクンと波打った。頬を伝って流れる血をペロリと舐める。久しぶりに手ごたえのある相手が登場したのだ。気を抜けば、敗北どころか命が消し飛んでしまう。こんな生死をかけたような実戦のヒリヒリした感覚は久しぶりに味わうものだ。
 鰐十郎は《流の構え》をとった。多様性に富んだ柔軟な構えだ。それでいて反撃は錐のように鋭い。
 勝負は一瞬にしてついた。同じように攻撃してきた山高兄弟に対し、鰐十郎は猛然と攻撃を仕掛ける。デブの剛腕を飛び越え、固い頭を踏み台にして空中に舞う。ノッポと対峙する形になった瞬間、体を激しく回転させながら手刀を繰り出す。鰐十郎の得意技、《デスロール》だ。手刀は確実に相手をとらえ、あばらを何本かへし折ったに違いない。そして相手を蹴り上げた直後、その反動で下にいたデブのブヨブヨした頭に肘を思い切り叩きこむ。ボクッという嫌な音がする。その間ほんの数秒のことだ。
 鰐十郎が再び構えをとった時には、ノッポもデブも血反吐を吐いて倒れていた。
「ふん、なるほど。噂以上だな……鰐十郎」
 もう一人の男がゆっくりとサングラスを外すのを見て、鰐十郎はため息を漏らした。
「おっさん、まだやるつもりなのかよ。もっと強い仲間が来るのを待った方がいいんじゃねえか。俺もさすがに人殺しだけはやったことがねえからよ」
「いい若造だ。個人的には嫌いじゃないが、まあ……」
 そう言いながら男は構えをとった。どこといって特徴のない構えだ。強いて言えば素人が見様見真似でプロの型を真似しているようにも見える。だが、妙な感覚だった。呼吸に全く乱れが無いのだ。空手の高段者でもなかなかこうはいかない。
 男が背中からスルリと何かを取り出した。鰐十郎は一瞬それがサラダを取り分ける時に使うフォークとスプーンに見えた。だが、それはもっと邪悪なそして一言では言い表せない複雑な形状をしている。見たことも聞いたこともない武器だった。
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