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文字数 520文字

 髭男が鰐十郎を睨み返したまま、女将に言った。
「わかってるよ、女将さん。わしらもいっぱしの格闘家だ。店を壊したりとか、一般人に迷惑をかけるようなこたぁしねえ。おい、鰐十郎、後でゆっくり話をつけようぜ」
 男はポケットからクシャクシャの紙を取り出すと、それに何かを書いて鰐十郎の胸にたたきつけるように渡した。
 男たちがそのまま出て行くと、鰐十郎はまた何事もなかったようにスツールに腰をおろした。
「まったく、最近ああいう輩が増えて困るよ。また、警察沙汰になったらどうしようかと思っちゃった。そうでなくても大家さんに快く思われてないからね」
「あの時はゴメン。反省してるよ」
「それはいいんだよ。鰐ちゃんの気持ちも良く分かってるから。それに今日だって随分我慢してくれたしね。でも、大丈夫? 名前までわかって、後で変なことにならないかしら」
「それは大丈夫。お互いにこの町に道場を持つ格闘家同士。いわばどっちもプロだから……プロにはプロとしての穏便な収め方があるのさ」
「そう……それならいいけど」
 女将は不安そうな顔をしていたが、鰐十郎の目の前に銚子を一本トンと置いた。
「はい、母さんからの奢り……」
 鰐十郎はニヤリと相好を崩した。
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