3-2

文字数 1,152文字

 仕方なく裸になってベッドの上に横になると、両側に院長と蓮華が立ち、火傷の痕や傷を子細に調べ、それぞれに処置を施していく。院長が患部に注射を打ったり傷を縫ったりし、蓮華は薬を塗ったり包帯を巻いたりしている。その分業化はなかなか手慣れたものだった。
 一通り治療が終わるまでに小一時間程かかり、鰐十郎は全身包帯だらけのミイラ男のような姿になっていた。
「問題はコイツかな……」
 院長は鰐十郎の左腕をポンポンと叩いた。激痛が脳天まで駆け抜け、鰐十郎はベットの上で悶絶した。
「おお、悪ぃ悪ぃ……」
「治りそう?」蓮華が訊く。
「うむ。傷や火傷は大したことない。時間がたてば自然に治るじゃろう。問題はこの左腕の奥深くに埋め込まれた根っこじゃな。他の取り残しは何とか処置したが、こいつだけはかなり奥深いんでね……」
「もう一回やってみようか?」
 蓮華がすっと右手をあげると、指先がぼうっと光り出す。
「まあ……待て。骨ごと焼き切れば取り除けるが、体の方がもたんじゃろう。本人も自分の左手がバーベキューになるのを間近で見ているのは、あまり気持ちのいいもんじゃなかろうて」
 鰐十郎は慌てて左手を隠すような仕草をした。
「いやいや、それは絶対的に拒否する……。何か他の方法は?」
「無いことも無い。そうじゃな、一番いいのは術者を殺すことじゃな。根っこは生きている限り術者の支配下にあるから。逆に言えば術者が呪いを解くか、あるいは死ねば根っこは跡形もなく消えるはずじゃ」
「でも、ほとんどは取り除いたんだろ。小さな根っこだけなら、そのうちに……」
「おまえさん、頭悪いね。トゲが刺さってるわけじゃないんだ。根っこは今も生きていて、おまえさんの体を蝕んでいるんじゃよ。放っておけば、やがて芽が出て花が出て、終いにはお前さん自体が植物になっちまうだろうよ」
「ホントかよ――」
「ああ、本当も本当じゃ。ただ、どういう風に成長するとか、成長速度とか詳しいことは分からん。分かるのは放っておくのはまずいってことだけじゃ」
 鰐十郎はようやく事態の深刻さを理解して、愕然とした。
「まあ、そう落胆するものでも無い。他に対処療法というのもあるでな。ネズミの尻尾と、コウロギと、ブタの心臓の血と、カマキリの腹の中におるハリガネムシと……まあ、そんなことはどうでもいいか。とにかく症状を一時的に抑える飲み薬はある。ただし、完治するわけじゃないのじゃ。根っこの成長を遅らせるだけじゃ」
「……つか、それぐらいしか方法がないってことだろ?」
 鰐十郎の問いに院長が頷くと、
「気持ち悪いけど、それ飲むよ。以前ナマコを食べて吐きそうになったことがあるけど、それよりはましだろう」
「ま、ま、焦るでない。材料を探すところから始めるでな」
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