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文字数 850文字

 そう言ってスマホを切ってから、窓をあけた。あたりはすっかり暗くなりおまけに小雨まで降り出している。一旦駅前に出て、駐輪場に止めてある道場のチャリで向かうか……。そんなことを考えながら廊下に出ると、蓮華と出くわした。
「おっと、鰐君。今から君ん家行こうと思ってたんだけど……」
 グラスを二個とワインの瓶を持っている。
「悪ぃけど、それどころじゃなくなった。ウチの道場が今大変なことになっている」
「あっそ。じゃああたしも行くわ」
 ワインを持ったままついてくる。
「いやいや、おまえには関係ねえから」
 そうは言ったものの、蓮華に言いくるめられて結局は一緒に行くことになった。蓮華の車は病院裏の広い駐車場に置いてあった。虹色のボルシェだ。
「何だよ。この派手な車は……」
 そう毒づいてみたものの、いまさら駅まで歩いてチャリに乗る気はしない。蓮華は手慣れた感じでポルシェに乗り込み、思い切りアクセルを踏み込んだ。敷地内の狭い道をタイヤを軋ませながら走りぬけ、公道に勢いよく飛び出す。
「おいおい、急ぐとはいったけど、一刻を争うわけじゃないんだぜ」
「ん? 別に飛ばしてるわけじゃないよ。それにまだ通りに出たばかりだし……」
 そう言いながらさらにアクセルを深く踏み込んだ。
「そう言えば今朝の新聞見た?」
「ああ、クラブのボヤ騒ぎのヤツな」
「あんたの知り合いらしいよ」
「香澄ちゃん? ……そうか、そんな話をしてたけど、香澄ちゃんだったのか……大丈夫だったのかな」
「無傷だよ、遥って優秀な子がついてたからね」
「そりゃ良かった。でも、偶然ってあるんだな」
「偶然?」
「だってそうだろ、おれの昔の知り合いが同じ《運命の子供たち》だったなんてさ」
「ぜんぜん偶然じゃないよ。爺さんも運命づけられているって言ってただろ。鰐君いくつ?」
「二十四だけど……」
「あたしもそう、その子も同じぐらいじゃない」
「確かに……でも、同じ学校に行ってたわけじゃなし……」
「そんな簡単な話じゃないんだよ……」
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