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文字数 1,308文字

 さらに廊下を先に進むと、突き当りは広いラウンジになっていた。古い冷蔵庫に古いピアノ、箱に入ったマネキンの残骸。サイドボードも古いが、中には様々な酒が置いてある。
 二方向が全面ガラスとなっており、遠くの景色まで見渡せる。だが、絶景とはほど遠い汚い川と裏の広大な野原が見えるだけだ。
 鰐十郎がソファに腰を落ち付けると、蓮華は商売人らしい手慣れた仕草で水割りを作り始めた。楽しむようにウィスキーの色を眺めてから、二三回手の中でまわし、グイと一息に半分ほど飲み干す。
「体に染み渡るね……久ぶりに運動しちゃったから」それから鰐十郎に目を向け、「ん?  あんたもいる?」
「むしろ俺のために作ってくれたのかと思ってたけど……」
 蓮華は大笑いして、冷蔵庫から氷を取り出して新しい水割りを作り始めた。鰐十郎が一口飲むと、
「どう……美味しい?」
「ああ、いいね……普段は日本酒が多いんだけど、洋酒もなかなかだ」
「こう見えても一応プロだからね。カクテルとか飲みたかったらなんでも言いなよ。ここ、酒は結構そろっているから。おつまみ、何か出そうか?」
「いや、今はいらない……って言うか、おまえ誰だよ?」
 鰐十郎は水割りのグラスをテーブルの上に置いて、蓮華の顔をまじまじと見つめた。
「納涼蓮華って名乗らなかったっけ」
「いや、そうじゃじゃなくて。お前みたいな格闘家がいるなんて聞いたことねえぞ。どこで修業したんだよ? 何ちゅう流派だよ? 手に何仕込んでんだ?」
「流派……」蓮華はまた大笑いした。「そんなもん、ありゃあしないよ。まあ、知りたがり屋の僕ちんには白玉小僧から説明してもらいましょうか」
「何だよ、さっきも言ってたけど、そのキンタマ……何とかって」
「シラタマだよ。シ、ラ、タ、マ……」
 そんな話をしている間に、黒い鞄をさげた一人の少年がラウンジに入って来た。瞳はブルーで髪は真っ白、透けるように肌が白い異様な風貌の少年だ。
 あたりをキョロキョロと見渡した後、サイドボードの方に歩み寄り、グラスにウィスキーを入れてそのまま一息に飲み干し、小さなゲップをする。
 そして、ウィスキーの瓶とグラスを持ったまま鰐十郎の向かいに座った。
「ふむ……話は聞いておる。お主が鰐十郎か」
 声は子供だが、仕草や言葉遣いはとても子供とは思えない。白玉小僧はしばらく鰐十郎を凝視していたが、振り返り、
「儂のことは話しておらんのか?」蓮華が首をすくめて見せると、
「そうか、まあよい。儂のことはおいおいわかるだろう。さてと、何から話せばよいかな……」
 白玉小僧は老人のように顎の下で手を組んだ。
「あいつらは一体何者よ? 俺の知らない顔、俺の知らない武術。それだけでも信じがたいのに……そして、あんたらは何者?」
「ふむ……奴らが何者かはよくわからん。だが、儂らは『アンダーテイカー』と呼んでおる。墓掘り人じゃな。人の見えないところでいろいろと仕事をしているらしい。これまでは儂らとあまり関わりあうことはなかった。だが、このところ急速にいろんな場面で遭遇するようになったのだな。少なくとも今は儂らの行動の障害になっておる」
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