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文字数 1,076文字

 蓮華と別れた香澄は建物の裏口から外に出た。
 十人余りの少女を連れているので、迂闊な行動はできない。建物が組織のアジトであるからには、いつ組織の人間が現れないとも限らない。もしかしたら何らかの手段ですでに連絡がいっている可能性もあるのだ。
 周囲に誰もいないことを確認して、少女たちに後からついてくるよう合図を送る。幸いあたりには全く人影はない。
 建物の裏側から表通りに出、ガラス扉の前を通り過ぎて、黒いワンボックスカーに辿り着く。キーレスエントリーだと音が出るので、敢えて鍵穴にキーを差し込む。
 ここまで来ればもう安心だ。
「もう、大丈夫よ……、順番に乗って……」
 一人の少女が不安そうな顔をして言った。
「あのう……アリスちゃんは?」
「今来るから大丈夫よ。とにかく乗って、乗って。ちょっと狭いけど、奥に詰めてね」
 少女たちが順番に乗り込むのを手伝いながら、香澄の耳が遠くのエンジン音を捕えた。
「どこかで車の音しない?」
 ちょうど乗り込もうとしていた少女は首を横に振った。空耳かと思いながら、遠くに目を凝らすと遥か遠くで何かが光ったのが見えた。それは自動車のフロントガラスが陽光を反射した光のように思われた。しかも、何かがとんでもないスピードでこちらに近づきつつあった。
「ちょっと、一旦中止。車に乗った人は外から見えないように頭を低くして……」
 半分ぐらい乗り込んだところで、中の少女たちの指示し、残りの少女と車の陰に隠れながら、なるべく入口の遠くに退避した。
 ほどなく、紺色のスポーツカーが矢のような速さで通りをやってきて、ワンボックスカーの隣に車を滑り込ませた。空いているのはここだけだった。
 男が降りてくる。サングラスをかけた小男だ。あたりを見回すような仕草をしていたが、幸い隣の車にいた少女たちには気付かなかったらしく、そのまま入口から建物の中に入っていった。
 少し間をおいてから、香澄は残りの少女たちを車に乗せ、ガラス扉の前から中の様子を伺った。突然誰かが階段を降りてきて驚いたが、それは目白アリスだった。
「蓮華さんは?」
「今、下からやってきた人がいたみたいで、そっちの方に行った……警察に行けって」
「分かった、誰か運転できる?」
「私が……でも、警察の場所って……」
 香澄はスマホを取り出し、マップで警察の場所を出してアリスに見せた。アリスは歩きながらマップを睨みつけるように見ていたが、
「これ、貸してもらえない? 方向音痴なの……」
「他の人のスマホは?」
「私物は全部取り上げられちゃったの……」
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