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文字数 1,384文字

 女の車は十五分ほど走って、シャッターだらけの閑散とした商店街にやってきた。さらに横道に入り、小さなビルの間を幾つか抜けて裏通りに出、大きな建物の前にある駐車場に車を滑り込ませた。
 蓮華は少し離れた場所で停車し、双眼鏡を取り出した。雨はいつの間にかやんでいる。
「あそこがアジトなんだろうか?」
 三階建てのL字型のビルで一階は店舗、二三階は事務所か住居になっているらしい。ビルの横にポールが立っていて、そこから『KBモー』と書かれた看板の残骸がぶら下がっている。駐車場脇には古タイヤが乱雑に積み上げてられている。おそらく『KBモータース』という名称の自動車関連のビルだったと思われるが、今は営業していない。すべてのシャッターが下ろされ、ガラスで仕切られたショールームらしき部屋の扉には頑丈そうなチェーンが×の字にかけられている。
 女は数台の車と建物の間を抜け、一番奥にあるガラス扉から中に入っていった。蓮華たちは車の中でしばらく待っていたが、その後特別な動きはない。
「ここがアジトなんだろうか?」
「何かの店みたいだけど、随分さびれてるよね。誰かが住んでるようには見えないけど」
 蓮華は少しの間難しい顔をしていたが、ドアノブに手をかけた。
「こうしててもしょうがない。ちょっと様子を見てくるから、ここで待ってな」
 外に出ようとする蓮華の手を香澄がつかんだ。
「私も行く。危ないのはわかっているけど、お互いに助け合わなくちゃ」
 蓮華がわかったというように頷いたのを見て、香澄も車外に出た。女が入っていった扉のそばに行き、中をそっと覗く。奥への通路と二階へと続く階段が見える。人が住んでいるとしたら建物の構造上二階より上の可能性が高い。女はおそらく階段を昇って行ったに違いない。
 二人は一旦建物の裏側に回った。目の前にはゴミの散らかった草むらが広がり、反対側のコーナーに鍵のかかったドアがある他、めぼしいものは見当たらない。
「よくわからないね。それらしい雰囲気はあるけど、とりあえず爺さんに報告しとくか」
 蓮華がそう言った時、突然香澄が雨に濡れた草むらをかき分けて歩き始めた。
「どうした?」
 蓮華が訊くと、
「何か白いものが見えたんだけど……」
 香澄が拾い上げたのは一センチ角ほどの大きさの小さな紙片だった。広げると下手くそな文字が書いてある。
 ――カンキンされています。たすけてください
 よく見ると周囲には他にも風に飛ばされたらしい紙片が何枚か散らばっている。どの紙片も同じような内容が書かれていた。
 建物の下に戻ると、香澄が二階の一画を指さした。
「あれ……。換気用の穴かなんかだと思うけど、紙が一枚あそこにひっかかってる」
「あの部屋か……」
 蓮華は改めて一階のドアを調べたが、中からしっかりと鍵がかけられている。蓮華の能力を使えば、壊せるかもしれないが、ドアを破壊する時かなりの音がするに違いないし、中の様子は全くわからないのだ。
「とりあえずさっきのドアから入るとするか……」
「えっ、中に入るつもり?」
「上にいるの、おそらくさらわれた女たちだよ。早く助けなくっちゃ……」
「そうだとしても、とりあえず遥さんとか鰐十郎君とか応援を呼んだら」
「ワチャワチャそんなことをしてる暇はないんだよ。一刻を争うかもしれないんだからね」
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