16-2
文字数 1,175文字
香澄はワンボックスカーにアリスを案内しながら、
「わかった……でも、ちょっと待っててね」
そう言って車から少し離れ、遥の仕事先に連絡をとった。仕事中は電話連絡をしない約束になっているが、事態が事態だけにそうも言ってられない。
――はい、先進情報科学研究センター第二事業部です。
――突然ゴメン。香澄。
――いつもお世話になってます。何か緊急事態でも発生しましたでしょうか。
――今、何とかモータースっていう車屋さんのそばにいるんだけど、中に《アンダーテイカー》らしき人と蓮華さんがいるの。きっと中で鉢合わせしてる。
――そうですか。そういう事でしたらなるべく早く駆け付けますが、とりあえずそのままにしてお待ちいただけますでしょうか。
――そんな余裕ないよ。何か変なオーラ出してる人だったし。
――緊急事態ということですね。それなら至急伺うよう手配致します。時間的な問題もありますので、修理箇所の情報などをメール等で送ってもらえますでしょうか。より早く対応することが可能かと思いますが……。
――わかった、この後すぐに位置情報送るね。
――お願いいたします。大変助かります。
――遥さん、ありがとう。
――いえ、こちらこそ。
スマホを切ってから、香澄は急いでマップ情報をメール添付で送った。車に戻るとアリスたちが待っている。
「他の子に聞いてみたんだけど、やっぱり道がよくわからないって」
「いいのよ……これ持ってって。ルート設定しておいたから、ナビに従って走って」
「あの……あなたは?」
「私は仲間がいるから、様子を見に行ってくる。あなたたちも事故なんか起こさないように気をつけてね……」
アリスは大きく頷いた。
車がためらいがちに動き始め、通りの向こうに消えるのを待って、香澄は再び建物の中に入った。数時間前に初めてこの建物に入った時は二階への階段を昇ったが、今回は直感で一階の扉に向かった。
鍵はかかっていない。ロッカーの並んだ小さな部屋が現れる。横には机があり段ボールが山積みになっている。狭い通路を抜け突き当りのドアを開けると、全面がガラス張りの大きな部屋が現れる。人の気配はない。カウンターがありいくつかのテーブルセットが置いてある。向こうの床に描かれた数個の大きな丸は車を置く場所なのだろう。だが、今は何も置かれていない。正面の入り口も鎖で閉ざされ、外光は室内の汚れと埃を浮かび上がらせているだけだ。
その時奥の方からガタガタと音がした。何かが倒れる音、そして転がる音、足音……。それは隣の部屋から聞こえてくるようだった。香澄はそっと壁際により、ドアの傍に立って壁の向こうの様子をうかがった。
カタリというほんの小さな足音――。はっとして振り返る間もなく、頭を鈍器のようなもので思い切り殴られた。
「わかった……でも、ちょっと待っててね」
そう言って車から少し離れ、遥の仕事先に連絡をとった。仕事中は電話連絡をしない約束になっているが、事態が事態だけにそうも言ってられない。
――はい、先進情報科学研究センター第二事業部です。
――突然ゴメン。香澄。
――いつもお世話になってます。何か緊急事態でも発生しましたでしょうか。
――今、何とかモータースっていう車屋さんのそばにいるんだけど、中に《アンダーテイカー》らしき人と蓮華さんがいるの。きっと中で鉢合わせしてる。
――そうですか。そういう事でしたらなるべく早く駆け付けますが、とりあえずそのままにしてお待ちいただけますでしょうか。
――そんな余裕ないよ。何か変なオーラ出してる人だったし。
――緊急事態ということですね。それなら至急伺うよう手配致します。時間的な問題もありますので、修理箇所の情報などをメール等で送ってもらえますでしょうか。より早く対応することが可能かと思いますが……。
――わかった、この後すぐに位置情報送るね。
――お願いいたします。大変助かります。
――遥さん、ありがとう。
――いえ、こちらこそ。
スマホを切ってから、香澄は急いでマップ情報をメール添付で送った。車に戻るとアリスたちが待っている。
「他の子に聞いてみたんだけど、やっぱり道がよくわからないって」
「いいのよ……これ持ってって。ルート設定しておいたから、ナビに従って走って」
「あの……あなたは?」
「私は仲間がいるから、様子を見に行ってくる。あなたたちも事故なんか起こさないように気をつけてね……」
アリスは大きく頷いた。
車がためらいがちに動き始め、通りの向こうに消えるのを待って、香澄は再び建物の中に入った。数時間前に初めてこの建物に入った時は二階への階段を昇ったが、今回は直感で一階の扉に向かった。
鍵はかかっていない。ロッカーの並んだ小さな部屋が現れる。横には机があり段ボールが山積みになっている。狭い通路を抜け突き当りのドアを開けると、全面がガラス張りの大きな部屋が現れる。人の気配はない。カウンターがありいくつかのテーブルセットが置いてある。向こうの床に描かれた数個の大きな丸は車を置く場所なのだろう。だが、今は何も置かれていない。正面の入り口も鎖で閉ざされ、外光は室内の汚れと埃を浮かび上がらせているだけだ。
その時奥の方からガタガタと音がした。何かが倒れる音、そして転がる音、足音……。それは隣の部屋から聞こえてくるようだった。香澄はそっと壁際により、ドアの傍に立って壁の向こうの様子をうかがった。
カタリというほんの小さな足音――。はっとして振り返る間もなく、頭を鈍器のようなもので思い切り殴られた。