14-1

文字数 1,622文字

 目白アリスが階段を降りるのを見送った後、蓮華はゆっくりと音のする方に向かった。コーナーまで来るとL字型の先の廊下を覗く。誰もいなかった。だが、相手は間違いなくこの先にいるのだ。ゆっくりとマリリンがいた部屋の前に行き、中の様子を伺う。とその時、奥の部屋のドアが唐突に開いた。マリリンとサングラスの小男が出てくる。
 男はマリリンをかばう様に身構えた。
「おっと、あんたは……どこかで逢ったことがあると思ったら……そうですか、やはりあなたたちでしたか。しかし、今日は随分ジミな出で立ちで……」
「こっちにもいろいろと都合があんだよ……」
 蓮華は張り込みためにシャツにジーンズという、本人にとってはらしく無い格好に甘んじている。
「そうですか。女の子もいないようだし、とっくに尻尾を巻いて逃げ出したものとばかり思ってたが……」
「尻尾を巻いて逃げるのはあんたらの得意技だろ」
 以前戦った時、男は逃げるように去っていったのだ。
「あの女だよ。あの女にやられたんだ。でも気を付けな……妙な技を使いやがるんだ」
 男の背に隠れるように、マリリンが憎悪の目で蓮華を睨みつける。
「ああ、知ってるとも……」男がニヤリと唇を歪める。
「予想はついてたけど、やっぱりあんたらが絡んでいたんだね」
「何言ってんだい。この方はね、私が大声で助けを呼んでいるのに気付いて、急いで来てくれたんだんよ」
「そういう事だ。たまたま歩いていた唯の通りすがりに過ぎない……」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
 蓮華はすっと両手をあげた。指先がライトセーバーのように光り出す。男は鹿の角に似た例の妙な武器を出してきた。男が胸の前で武器を打ち合わせながら突っ込んでくる。そして、打ち合わされると同時に何かを大量に放出する。
 その正体はわかっている。鰐十郎の腕に食らいついてた《吸血蔦》だ。蓮華は《蛍》を放出した。それはヒルのような《吸血蔦》に取り付いて、それらを焼き払う。蓮華は体術を使って男の攻撃から逃げる。その周囲で花火のように炎が飛び交う。男の角の攻撃をかわしながら、その周囲では何十という分身たちも戦いを繰り広げているのだ。
「懲りないヤツだね。何度やっても同じことだよ」
「そうだな……」
 何か反発するかと思ったが、男はあっさりと矛先を収めると、ジリジリと後退しマリリンと共に階段を駆け下りた。蓮華も慌てて後を追う。
 一階のドアを開けると、広い野原が広がっていた。ドアが閉まる音を聞いてすぐにあとを追ったので、まだ遠くに行っているはずはない。蓮華はすぐに建物内に戻り、反対側のドアを押した。中は薄暗く広い空間だ。照明代わりに《蛍》を数匹放つ。そこは自動車の修理工場で、大きな機材や修理中の車が乱雑に置かれている。壁際には棚があり、一面に雑多なものが積んである。
 遠くの方でカランという音がした。男が車の陰から出てくる。
「どういうことかな? 逃げたり待ち伏せたり……」
 蓮華が首を傾げると、男はニヤリと笑った。
「そのうちわかるさ。ちなみに俺の名前はアイビーだ。覚えといてくれ」
「とても外人には見えないけどね……」蓮華が指を立てると、先端がボーッと光り出す。「まあ、どっちでもいいけど……。自慢じゃないけど記憶力はいい方じゃないんだよ」
 蓮華が《蛍》を放つと、アイビーはすっと車の陰に隠れた。それを《蛍》が追いかける。
「悪いけどね、こいつらには目があるんだよ。ほーらそこだ……」
 蓮華が手先を大きく降ると、鞭のような光の束が放射される。それは辺りのものを焼き払いながら、蛇のようにのたっくって棚の後ろに隠れていたらしいアイビーをあぶり出す。
「ぐはっ――」
 火に包まれたアイビーがたまらずに飛び出す。その時、室内の数十のスプリンクラーが同時に作動した。あたりはあっと言う間に水浸しになる。降り注ぐシャワーのような水を浴びて《蛍》が次々と消滅していく。
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