14-2

文字数 1,152文字

「どうかな? 火は水を得て弱まる。草は水を得て力を得る」
「あたしの火はそんなヤワな水じゃあ消えないよ」
 蓮華は立て続けに光のムチ《火龍鞭》を放射する。だが、水の中でその威力は明らかに半減していた。アイビーは車を盾に右に左にとせわしなく動き回っている。蓮華の《火龍鞭》は巧みにそれを追いかけるがあと一歩のところで消滅してしまう。
 アイビーが反撃してきた。奇妙な形の杖を打ち鳴らしながら、唐突に上方から襲ってくる。蓮華は転がりながら《蛍》を放った。それは手裏剣のように鋭く、アイビーの肩に突き刺さる。それをものともせずに、更に攻撃を加えようとするが、再び手裏剣のような《蛍》がアイビーの首許をかすめる。
「なるほど、こいつにはいろんな形態があるってわけですね。なかなか便利な技だ」
「頸動脈を貫いたり、目ん玉を抉ったりすることぐらい朝飯前さ」
 アイビーは手を大きく広げた。猛烈に嫌な気配を感じた蓮華があたりを見回すと、周囲の壁という壁はツタに覆われ、さらにキュルキュルと音をたてながら成長している最中だった。一本のツタが矢のような速さで飛んできて蓮華の足に巻き付く。あっと思う間もなく反対側から飛んできたツタが左腕に絡みつく。蓮華は身体を捩じりながら《火龍鞭》でそれらを断ち切る。
 とりあえず逃げなくちゃ――。
 ツタをかわしながら転がるように作業台の後ろに逃げ込む。視界が閉ざされると、アイビーの方からは直接攻撃は出来ないらしい。かといって、蓮華の方もスプリンクラーのおかげで《蛍》を遠くに飛ばすことが出来ない。互いに攻め手を欠いて、少しの時間が過ぎた。
 蓮華の額に一粒の雫が落ちる。見上げると、密集したツタがじわじわと降りてくるところだった。移動しようと前後を見回して愕然とする。前も後ろもツタに覆われ、それがじわじわと迫ってくるのだ。どこか空いている空間はないか探してみたが、どんなに狭い空間もツタがびっしりと覆っている。
 蓮華は身を低くしてじっと機会を伺った。下手に動いて四方から絡めとられては元も子も無い。だが、機会を逸しては大量のツタに押しつぶされてしまうだろう。
 ツタの壁が頭上一メートルあまりに迫った時、蓮華は《火球》を放って一気に頭上を突き破って飛び出した。予想通り蛇のようにツタが何本も追いかけてくる。棚を倒して空間を作り、その隙間を逃げる。だが、アイビーがその行く手を阻む。棚にあった塗料の缶が盛大にぶちまけられる。ツタが暴れ狂っているのだ。
 蓮華は修理中の車の下に潜り込み、反対側から逃げようとした。だが、そこもツタで埋め尽くされている。転がりながら横に出て、飛び上がろうとした足を絡めとられる。それから、右手左手と絡めとられ、あっという間に柱に貼り付けにされる。
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