4月10日 嫌悪の色1:俺の烏帽子は紫色

文字数 565文字

 親友から借りたノートに、うっかりコーヒーをこぼした。

 何も言わず返した。

「この染み、コーヒーだよね?」

 昼休み、別の友人と談笑していると、親友が尋ねてくる。
 眉根が寄っていた。

「ああごめん、ついこぼしちゃって」

「ついじゃないでしょ。どうして返す時に言ってくれなかったの?」

 声が尖っている。
 何むきになってるんだ?

「だからごめんて」
「理由を聞いてるんだけど」
「理由て……そりゃ、怒るかなーって、あとつい忘れてて」

「つい、忘れた?」

 非難するような口ぶり。

 そんな悪いことか?

「そうだよ。つい、忘れたんだ。謝ったんだし、もういいだろ?」

「それが謝罪する側の態度かよ」

 たかがノート一冊汚した程度で、ぐだぐだうっせぇなぁ。

「あーはいはい、そうですね、俺が悪かったっすね。すんませんねぇ、被害者様様様。良かったですねぇ、自分は傷ついた側と、いくらでも俺を責められて。怒り狂う免罪符、どうぞご自由にお使いくださいませ」

 親友は俺の背を見下ろして言う。

「それだけか?」
「まだ謝罪が必要ですかぁ? 土下座とかしましょうかぁ?」

「いやいい」

 親友は立ち去った。

「あばよ」

 二度と俺に話しかけてこなかった。
 器のちいさいやつ。

 あのノートが、親友が誕生日に妹から貰った思い出の品と小耳に挟んだ時、俺はつくづく思った。

「シスコンかよ。気色わるっ」
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