4月16日 石ころ5:返報性の原理

文字数 579文字

 勇者一行は酒場で悪徳キャラバンの噂話を聞いた。

 護衛の成功報酬は通常の倍支払う。
 ただし、一方が相手を怒らせたら、取引は終了とする。怒ったほうは魔法の箒でこちょこちょの刑だ。

 旅のはじめ、キャラバンの旦那も護衛を重宝していたが、首都が近づくや否や態度が急変。夜を徹して警備しろだの、三日前に落とした豆を拾ってこいだの、無理難題を押しつけられる。
 ついに怒った友人は、箒で大笑いした。

「護衛募集中。報酬は三倍支払います。但し――」

 勇者一行が立候補する。
 目的地に近づくと、旦那の意地悪が始まった。

「青い鳥を探しにいけ。一帯すべてだ。十羽見つけるまで朝飯は抜きだ」

 魔法使いは馬車の中を荒らし、あらゆる油壷を叩き割り、あらゆる香辛料の箱を潰した。一帯を風魔法で吹き飛ばし、村人への賠償は旦那が受け持つ。

 別の日、僧侶は旦那の馬を野に返し、戦士は奥さんを樹に縛りつけた。

「馬の代わりにお前が俺を運べ」

 勇者は旦那を天高く放り投げる。
 全治一か月の怪我だった。

「お怒りになりましたか?」

 旦那は人間大の袋を取り出した。

「俺は感情を袋に閉じ込められる。お前らを雇ってから膨らんだ感情がこれだ……これ以上詰め込んだら破裂だ……わかるか? なあわかるか?」

 勇者が袋を剣で切り裂いた。
 堪忍袋は爆発した。

 勇者一行は報酬を満額受け取り、その後たっぷりと旦那を笑かした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み