5月6日 生活道具の本3:夜這いのすすめ?

文字数 590文字

 ロミオとジュリエットは密かな恋仲だった。

 夜、会いに来て欲しい。
 ジュリエットはロミオに鍵を渡し、いまかいまかと彼の到着を待った。

 その数、ざっと17個。

 ロミオが邸宅の前に立つ。

 肩に担いだ鍵は鎌の如く大きく、武器として活躍できるくらい重かった。金と銀の細工が絢爛だ。巨大な鍵を力いっぱい錠に差し込み、全身でひと回しする。

 寝室のドアには錠が5つあった。指輪型の鍵を合わせ、同時に回さなければ開かない。女性向けの指輪は彼の指には入らず、一つ一つ指先で錠に差し込まなければならなかった。

 やっとの思いで寝室に入ると、天蓋付きベッドは宝石箱のように壁に囲われていた。壁には二十以上の錠が均等に取りつけられ、半分は偽物だ。錠は深い穴に隠され、開ける順番を誤ると、穴の中のリングが締まり手首が拘束される。

 そのまま朝になれば牢獄行きだ。

 ジュリエットの指示を思い出し、決死の覚悟で鍵を差し込む。

「おお、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの!」
「ああ、ジュリエット! 会いたかった!」

 二人はひしと抱き合った。

「夜明け前だ。帰るね!」
「ええ! また明日の夜、お会いしましょう!」

 ロミオはもと来た道を戻っていく。

 愛はいかなる障害も乗り越える。
 ……ほんとかな?

【参考文献】
 エイミー・アザリート著、大間知知子訳『生活道具の文化誌 日用品から大型調度品まで』(株式会社原書房、2021)
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