5月4日 石ころ11:お話を知っている娘のお話

文字数 592文字

 少女は友達の家に遊びに行った。

 友達の父親、母親、妹、弟、ポチとジョセフィーヌが居間に集まり、歓談を楽しむ。父親の夢物語、母親の冒険譚、妹の異世界転生譚、弟の悲恋、ポチとジョセフィーヌのコロシアムデビュー、それぞれが一通り語った後、ついに少女の出番となった。

「妖精譚をして欲しい」

 少女は喜んでと微笑んだ。

 大きな旋風が吹いてきて、気づけば通夜の中にいた。
 湿っぽくて踊れやしない!
 参列者の一人がバイオリン弾きを求めると、

「エーレ国一のバイオリン弾きがいますよ」

 指名を受けた。
 訳もわからず生まれてはじめてバイオリンを弾くと、誰もが踊らずにはいられなかった。

 夜明け前に葬儀を終えなければ。
 神父を求めると、

「エーレ国一の神父さんがいますよ」

 指名を受けた。
 少女は立派に祈りを捧げ、誰もが涙を流さずにいられなかった。

 四人の男が棺を運ぶ。一人だけ背が高くて、がたがたと揺れる。
 医者を求めると、

「エーレ国一のお医者様がいますよ」

 指名を受けた。
 少女は男の脚を少し切り取り、元に戻した。誰もがその腕に感涙むせび泣いた。

 再び大きな旋風に吹いてきて、気づけばお話好き一家のソファーの上に座っていた。

「素晴らしいわ! あなたはお話を知っている娘よ!」

 友達は少女に抱き着く。
 悪い気はしなかった。

 もし誰かにお話を求められれば、この話をすればいい。
 妖精譚は心を豊かにしてくれる。
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