4月19日 石ころ6:死者の恩返し

文字数 562文字

 血のように紅い頬、雪のように白い肌、鴉のように黒い髪の主を求め、にゃんこが旅に出た。
 どっさり小判を背負って。

 道中、墓穴の前でいがみ合う狐と狼と出会う。

「借金を払うまでは、やつを埋葬するな」

 にゃんこは小判を取り出し、これで十分かと狐と狼に尋ねた。

 いやもっとだ。
 十枚でも足りない。
 やつはとんでもない悪だったのさ。

 にゃんこの全財産をせしめると、彼らはようやく返済完了と墓を埋めた。
 瞬く間に無一文になったが、にゃんこの心は軽かった。

 僕は正しいことをしたんだ。

 旅を続ける。

 家々を尋ね回り、一宿一飯の慈悲を求める。不審者を中に入れて家族を危険に晒せないと、鼠叔母さんも、鼠お兄さんも、鼠子どもも断った。
 ぐうぐう鳴る腹を抱えて、樹のもとで眠りにつく。

「手元に少しでも――」

 後悔が頭を過るが、にゃんこは慌てて首を振る。

 善意に投じる小判ほど、価値あるものはない。

 食べ物は買えない。
 資本主義者しかいない。
 狩りの腕は長引く平和で鈍っていた。

 一週間後、にゃんこは道端に転がるゴミとなった。
 狐と狼が通りかかる。

「こいつはいい。墓穴の材料が手に入った!」

 再び棺桶が墓穴に置かれ、墓穴は埋まらない。
 善を信ずる猫が通りがかる。

 全財産を奪われる。

 民話のように、死者は恩を感じない。
 正義に酔えても腹は満ちない。
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