5月16日 生活道具の本6:それぞれの蝋燭譚

文字数 516文字

 朝は水を運び、昼は幼子の世話をし、夕方は食卓を彩り、夜は灯心草の髄を獣脂に浸したロウソクで勉強する。

 火のついた先端がロウソク立ての金具に近づき過ぎないよう、時折ロウソクをずらす。

 朝は装備の手入れをし、昼は戦場を駆け回り、夕方は鍛錬し、夜は油脂を型に流し込んで固めた獣脂ロウソクで勉強する。

 臭い。煙で目が痛む。
 空腹に耐えきれずぼりぼり齧ったら、腹痛で医者に駆け込んだ。

 朝はホットチョコレートを呑みながら入浴し、昼はビリヤード台で球を転がし、夕方はガラスの温室で栽培したオレンジを食べ、夜は明るく臭わないマッコウ脳油のロウソクを130本以上燃やしてシャンデリア、銀食器、金糸・銀糸を折りこんだ正装の輝くパーティを開く。

 一晩で2360ドル、照明に費やされた。

 朝はコーヒーで強制的に目を開け、昼はあくせくと働き、夕方は残業に追われ、夜はアロマキャンドルに火を灯して豊かな時間を楽しむ。

 柑橘系の香りと炎の揺らめきを堪能する。

 視覚に依存する人間にとって、太陽も電気もロウソクも救世主だ。

 光の幸あれ。

【参考文献】
 エイミー・アザリート著、大間知知子訳『生活道具の文化誌 日用品から大型調度品まで』(株式会社原書房、2021)
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