4月7日 怒りの色1:生意気な新人

文字数 517文字

 新入社員の教育係に任命された。

「この資料に目を通しておいて」
「承知しました」

 一時間後……。

「読み終わった?」
「ええ、はい。三十分前には」
「え。なんで報告しなかったの?」
「指示がなかったので」

 水筒から立ち昇る湯気は、ロイヤルミルクティーの甘い香りがした。

 いや報告しろよ。
 こっちは忙しくててめぇの一挙手一投足まで見てられねーんだよ。

「いま何してるの?」
「いえ何も。指示された業務はすべて終わりましたので」

 小指をぴんと立て、ティーカップから漂うレモンティーの香気を楽しんでいる。

 お前はどこぞの貴族か。
 俺は今後お前に割り当てられる分の仕事までしてんだよ。

「指示を待つなよ! 自分で動け! 給料分の働きをしろ!」
「はあ?」

 新入社員は怪訝な顔をした。

「オレが企業に提供したのは、一定期間、オレの時間を使う権利すよ? ここにいるだけで、給料分の働きじゃないすか。心が欲しいならその分金払えってんですよ。資本主義って労働の疎外化でしょう? ……あれ? 先輩、もしかしてマルクスご存じない? オレも入門書かじった程度ですけど……先輩って、新入社員のオレより、常識ないんすねぇ?」

 俺は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「うるせえ! 知るか!」
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