4月20日 恐れの色1:やや太って眼鏡のおじさん

文字数 589文字

 強面の先生がいた。表情は常に自信が漲り、俺のすべてが正しいと思い込んでいるような男だ。優秀だが、優秀故に、その優秀さを全員に求める害悪だった。

 授業にそぐわない行動は赦さない。予習復習は当然で、当てられてしどろもどろになると、「何を聞いていた?」「この程度できないのか?」そう本気で問うのだ。誰もが震えながら授業を受けた。

 特に優秀でない僕は。

 プリントを忘れた。

 別のクラスに借りに行く時間はない。
 隣の人に見せてもらう……ばれる。ぶち切れられる。

 騙し通すしかない。

 授業が始まる。皆はプリントと睨めっこし、あれこれと注釈を入れる。僕は緑色の黒板と白紙のノートを往復し、さも勉強しているように装った。

 先生が横を通る。
 教科書に集中して、僕を見ない。
 ごくり。

 生徒を指名して問題を出す。
 選ばれたら終わりだ。
 確率は四十分の……三十九分の……。

 肩を縮め、目立たないように顔を伏せる

「お前――」

 身が撥ねる。
 なぜ話しかけられた。何もしてないのに、いや本当に。

 先生は僕の耳元で囁いた。

「かわいいなぁ」

 舐め回すような声。
 加齢臭が僕の体を包み込む。

 失神しかけた。

 怖い怖いマジ怖いなんで何がどうしていかれてんじゃねぇのばれてんのばれてないの意味不明気持ち悪い吐き気がううぇえええ。

 これ以上の騒動は起こらず、授業終了のチャイムが鳴る。

 ――二度とプリントは忘れまい。
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