5月5日 後悔の色1:運命の出会いという災厄

文字数 590文字

 夏の色が立つ頃、僕は一目惚れした。

 観光旅行で藤の回廊を歩く。
 青紫のカーテンは圧巻だったが、あまりのひとだかりに辟易としていた。

 肩と肩がぶつかる。
 目線を遣る。

 息を呑む。

 モデル並みの美人とか、好みがどんぴしゃとか、そういう話ではない。天啓だ。僕はこの人と出会わなければならなかった。魂が喜びに震えていた。切れ長の目、疲れた横顔。彼女も僕を見る。瞳が開かれる。頬に朱が差す。

 繋がった視線に、同じ思いを知る。

 途切れ途切れ、話し始めた。

 仲良くなるのに、一時間もかからなかった。互いに友人と別れ、二人で話し込んだ。連絡先を交換し、その夜から毎日電話した。暇さえあればメッセージを送り、休みがあえば出掛けた。

 三か月後、告白した。
 大学を卒業し、同居した。

 プロポーズした。

 何もかもが順風満帆で、僕も彼女も最高に幸せだった。

 出会ってから十年、婚姻届けを提出する。

 受理されなかった。

 理由を知った。

 僕と同じ過ちを繰り返してはならない。
 知った後悔の痛みが、僕の絶望より小さいと信じている。






















↑藤のカーテンはここまで

 僕と彼女は異母兄妹だった。
 同じ精子提供者を父とし、別々の家で育った。

 君の彼氏・彼女はどうだろう?
 近親婚の罪を無意識に犯していないだろうか?

 類似性の法則には気を付けて。

 僕らは別れた。幸せだった十年は呪いとなった。
 二度と再会することはなかった。
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