5月11日 畏怖の色1:緑色の悪魔、あるいは進化の可能性

文字数 577文字

 植物は動かない。
 植物は食事しない。
 植物は記憶力がない。

 そんな常識を破壊する存在が、いわゆる食虫植物だ。

 鼠もチーズ片も唐揚げも食べるから、海外では「肉食植物」と呼ばれている。落ち葉や糞やバクテリア分解物を頂く種もいるという。

【ドロセラ/モウセンゴケ】
 葉には無数の腺毛が生え、その先端は粘液の水泡が膨らんでいる。
 粘液に触れた虫は動きを制限され、暴れるほど腺毛に絡みつかれる。

 あとは溶かされるのを待つだけだ。

【ウトリクラリア/タヌキモ】
 ミジンコが泳ぐ。突起に頭をぶつける。てこの原理で捕虫袋が開かれる。その内部は低圧で、水と扉とミジンコを瞬く間に吸引した。

 あとは消化酵素の餌食だ。

【ディオネア/ハエトリソウ】
 二枚葉の口を開けた獣。内に香る蜜に誘われて、小動物が口内に入る。トゲを刺激する。何も起きない。奥に進む。もう一度トゲを刺激する。口が閉じられる。締め付けられる。もがけばもがくほど、締め付けが強まる。

 一週間から十日かけて、消化液に溶かされる。

 一度目では、頭しか捕らえられないかもしれない。
 ただの水滴かもしれない。
 だから、30秒以内の二度の刺激で、口を閉じる。

 ハエトリソウは、一度刺激を受けたと、少なくとも30秒は記憶している。

 脳もないのに?

 ハエトリソウ曰く、
「人間の視点でしか、植物だの知性だの、定義できないなんてね」
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