4月4日 期待の色1:バナナの皮を踏ませたい訳

文字数 528文字

 夕方、わたしは歩道にマットを敷き、バナナの皮を置いた。
 電信柱の後ろに隠れる。

 そろそろ幼馴染の男の子が通る時分だ。
 カメラを準備する。

 やってきた。

 細身で背が高い。透明な翅が橙色の日差しに照らされて、鱗粉を散らす。彼の落ち着いた表情や優しい目は、妖精女子の間で絶大な人気を誇っていた。そうはさせるか。失敗写真をばらまいて、イケメン人気者から面白人気者に仕立ててみせる。

 でないと、なんか、むかつくもの。

 目を期待でいっぱいにし、わたしは歩道を見つめる。

 すいー……。
 彼がバナナの上を通る。

「飛んでると踏まない!」

 愕然とする。盲点だった。こんなトラップを秘密裏に仕掛けていたなんて!

「何してるの?」

 しかも見つかってしまう。

「え、えー? そ、その、ええぇっと、」
「他の子の迷惑になるよ。片付けて、早く帰ろ」
「う……」

 しょんぼりする。

「ほらいこ?」

 差し出された彼の手は、男の子みたいに大きかった。

 手を重ねる。わたしの手は女の子みたいに小さい。
 そのせいか、いや絶対夕日のせいで、顔が火照って仕方ない。

 やっぱり、なんか、むかつくよ……。

 わたしを引っ張って先に進む、彼の背中から目が離せなかった。

 二人で運んだマットは、一人よりずっと軽かった。
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