第94話 広がる輪

文字数 2,541文字

 学校が終わり、グループでファミレスまでやってきた。
 俺はバイトなので入り口で皆と別れ裏手の従業員用の入り口から入る。

 事務所に入り着替えを済ませ、一息吐いていると

「おはようございま~す」

 と沙月が出勤してきた。
 
「おはよう」

 と声を掛けると

「あっ! 友也さんおはようございます」

 と言って近くまで寄ってきて

「昨日はお姉ちゃんがお世話になりました」

 と、沙月がお礼を言ってきた。

「なんで沙月がお礼言うんだ?」
「妹だからです。それにお姉ちゃん、もう此処には余り顔を出さないって言ってました」
「そうか。それじゃあ友華さんとは仲直り出来たんだな」
「一応はそうですね。でもライバルでもあるので協力は昨日だけですけどね」
「やっぱり昨日の事は沙月が仕向けたのか」
「へへ~、迷惑でしたか?」
「いや、今回ばかりは沙月に感謝だよ」
「ふふ、ありがとうございます」

 と言って更衣室に消えて行った。


 ホールに出ると皆が楽しそうに話している姿が見えた。
 そこに混ざりたいが勤務中なので我慢する。

 注文を取りに行く時や料理を運んでる最中に

「お、ちゃんと働いてる」
「ファミレスの制服も似合ってる」
「あ、顔が赤くなった」

 等、色々聞こえてきた。

 その一連を見ていた沙月が

「もしかして8番テーブルの人達って友也さんのお友達ですか?」
「ああ、五月蠅かったら言ってくれ注意してくるから」
「いえいえ、あの程度は五月蠅い内に入りませんよ。それよりも……」

 沙月が何か言いかけたが、結局何も言わずに仕事に戻る。
 
 他のお客様に料理を運んで戻ろうとすると、沙月が8番テーブルで何やら話しているのが見えた。
 何を話しているのか凄く気になる。

 何より今日は楓と南も居るので沙月が変な事を言わないか心配になる。

 何を話しているか気になりながらデカンターに氷を入れていると、沙月が戻ってきた。
 俺はすぐさま沙月の元へ行き、何を話していたのか聞くと

「気になりますか~? だったら直接皆さんに聞いてみてください」

 と言い終わったタイミングで

ピンポーン

 と呼び出し音が鳴り、テーブルを確認すると8番テーブルだった。

「いってらっしゃ~い」

 と沙月に言われ、8番テーブルに向かう。

 俺がテーブルに着くと

「来た来た」
「店員さん遅いですよ~」

 と水樹と中居に揶揄われたので

「御用が無いなら失礼します」

 と言って踵を返そうとしたら

「ごめんね、悪気は無いから。二人とも揶揄わないの!」

 と楓に怒られていた。
 俺は普段通りに接する事にした。

「それで? 何注文するの?」
「悪い、注文じゃないんだ。友也の意見も聞きたくてな」

 と水樹が言うと、今度は田口が

「佐藤君はメイドがいいっしょ~?」

 と訳の分からない事を言い出した。

「すまん、何の事だ?」

 と聞くと、中居が答えた。

「文化祭の出し物だよ。田口がメイド喫茶やりたいってうるせーんだ」
「へー、田口ってそっちの趣味もあるんだな」
「いやいや、違うって~。ただウチのクラスの女子レベル高いからメイド喫茶やったら儲かるかな~って」

 田口……そんなに必死に弁明すると余計ドツボにハマるぞ。
 でも確かに女子のメイド姿は見てみたいな。
 だがここで田口に乗っかったら流石元ボッチとか言われそうだ。

「メイド喫茶の他には何か案はあるのか?」

 と聞くと楓が

「ありきたりな物しか浮かばないんだよね~」

 と困った表情をしながらほっぺたを掻く。
 それならと

「ありきたりでもいいから案を出して明日のLHRで決めればいいんじゃないか?」

 と提案した時だった。

「私のクラスはハワイアン綿菓子屋やりますよ~」

 いつの間にか沙月が隣に居た。
 沙月の登場に田口が食いついた。

「ハワイアン綿菓子ってなになに~?」
「店員がアロハシャツ着て、カラフルな綿菓子作るんですよ~」
「何それ! 美味しそう!」
「是非買ってくださいね~、待ってま~す」
「分かった! 絶対買うよ!」

 と田口は既に行く気満々だ。
 確か沙月の学校は女子高で招待性と聞いたが田口は誰かに誘われているのだろうか。

「ま、とりあえず佐藤の言う通り出せるだけ案だしてくか」
「そうだな、他の奴らが面白い物考えてるかもしれないしな」
「ちゃんとメイド喫茶は入れといてよ~」

 と男連中は纏めに入っていたが、女子達は……特に南は沙月に興味深々だった。
 
 下から上へ舐める様に見た後、ずっと沙月を観察している。
 これじゃただのヤンキーだ。

 このままじゃマズイと思い

「それじゃ仕事あるから戻るわ」

 と言い、沙月にも「ほら、仕事するぞ」と言ってその場を離れた。

 
 カウンターに戻ると、沙月が

「田口さんってよくバ……お調子者って言われません?」
「お前今なんて言いかけた?」
「あっ! トイレ掃除行ってきま~す」

 まったく、調子がいいのは沙月だろ。

 しばらくしてグループの皆が帰り、俺も上がりの時間になった。
 着替えを済ませ事務所で待っていた沙月と一緒に帰る。
 沙月と一緒の勤務の時は一緒に帰るのが当たり前になっていた。

 帰りの道中、ネックレスの事を思い出した。

「そう言えばこのネックレス結構な値段したんじゃないか?」
「気づいちゃいましたか~」
「なんで安物だなんて嘘ついたんだよ」
「そう言わないと受け取って貰えないと思ったので」
「確かに……ちゃんとお礼はするからな」
「別にいいですよ~」
「そんな訳にはいかないだろ」

 貰いっぱなし自体気が引けるのにこんな高価な物貰ったらそれこそお返ししないと気が済まない。
 でもお礼にブランド物ねだられたらどうしよう。

「そのネックレスは首輪だって言ったじゃないですか。つまり私がご主人様なのです!」
「お前……そういう趣味だったのか」
「違います! 私は諦めませんという意志表示なんです」
「だったら最初からそう言え」

 今までの男達にやってそうで怖い。
 
「どうしてもお礼したいですか?」
「ああ、じゃないと俺の気が済まない」

 沙月は少し考えた後

「それじゃあ今度、友也さんの家に行きたいです。あっ! 勿論二人きりの時ですよ」

 断ろうと思ったが、沙月と柚希が繋がっている以上断っても無駄だと確信した俺は

「分かったよ、但し大人しくしてろよ」
「分かってますって~」

 とりあえずアレなDVDとか隠さなきゃな。
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