第125話 居場所

文字数 2,281文字

 ロープウェイ乗り場からふもとまで戻ってきたが楓の姿が見えない。
 そこまで遠くには行ってない筈だ。

 辺りを見まわすと路地が何本かあった。
 この路地のどれかに入った可能性が高いな。

 取りあえず一番近くの路地から探す事にした。
 早くしないと日が落ちてしまう。

 路地は既に薄暗く、街路灯が点き始めていた。
 この路地じゃなかったか。

 と思い引き返そうとした時

「やめてください!」

 今の声は楓だ!
 路地の奥の方から聞こえた。

 俺は慌てて路地を進むと他校の生徒らしき二人組に楓が絡まれていた。

「ねぇいいじゃん、連絡先位おしえてよ~」
「嫌です!」
「ならこれから遊ぼうぜ」
「嫌です!」

 というやり取りをしていた。
 そして一人が楓の腕を掴もうとした時

「待たせたな、悪い」

 寸での所で割って入る事が出来た。

「友也君……どうして……」

 楓は俺がこの場に居るのが信じられないといった様子だがそれを無視する。
 俺は二人組を睨みながら

「悪いな、お前達の相手してる程暇じゃないんだ」
「はぁ? なんなんだよてめぇは!」
「2対1で勝てるとおもってんのかぁ?」

 やっぱり素直に帰してはくれなそうだ。
 流石に二人相手はキツイな。
 と考えていたら

「これで2対2だな」

 と後ろから声が聞こえたので振り向くとそこには

「水樹! どうしてここに?」
「俺も心配になってな。追いかけてきて正解だったよ」

 水樹の加勢により二人組は少し狼狽える。
 すると水樹が小声で

「俺が右側の奴をやるから友也は左の奴を頼む」
「頼むって言われてもどうすればいいんだ?」
「股間を蹴ってそのまま逃げろ」
「水樹はどうするんだよ」
「俺は大丈夫だから心配すんなって」

 と話していたら、二人組の一人が水樹を殴った。

「水樹!」

 思わず叫んだが水樹は

「お~痛って。でもこれで正当防衛だよ……なぁ!」

 と言って殴って来た相手を殴り飛ばした。
 そして

「友也!」

 水樹の言葉を受け、もう一人の股間を狙って蹴りを入れる。
 一人がやられて狼狽えていたので難なくヒットする。

 俺はそのまま楓の手首を掴み走り出した。
 
「楓、行くぞ!」
「え、ちょ、友也君?」

 戸惑っている楓を無視してその場から離れる。
 水樹が心配だが、水樹の事だから上手くやるだろう。

 問題は俺達だ。
 仲間とか呼ばれたら対処できないので闇雲に走る。

 途中何度か楓が何か言っていたがそれらを全部無視して走り続けた。

 するといつの間にか周りには建物が無くなり、小高い丘に出た。
 夕日も落ちかけて段々と暗くなっていく。

「はぁはぁ、此処まで来れば大丈夫だろ」

 と言って楓から手を離すと

「もう! 友也君無茶し過ぎだよ!」

 と言いながら胸を叩かれ、そのまま抱きしめられた。
 楓の身体は小刻みに震えていた。

「どうしてあんな事……ううん、なんで追いかけてきたの」
「楓が心配だったから。追いかけてよかったよ」
「良く無いよ。水樹が来なかったらどうするつもりだったの」
「その時もこうして逃げてたよ。俺は喧嘩は出来ないからな」
「ばか……」

 しばらくして楓はやっと落ち着いたのか俺からそっと離れる。
 夕日が沈み、辺りは街路灯が数本あるだけだ。

 しかし、丘から見える夜景は凄く綺麗だった。
 こんな光景は中々見れないな。
 と思っていると

「綺麗な夜景……」
「そうだな」

 今なら自然に言えるかもしれない。

「「あの!」」
「ご、ごめん」
「ううん、大丈夫」

 楓と被ってしまった。

「えっと、楓からどうぞ」
「え、でも……分かった、私から言うね」

 と言って深呼吸すると

「今日は避ける様な事してごめんなさい!」

 と頭を下げた。

「どうして避けてたか教えてもらえるかな?」
「えっとね、昨日南から友也君にフラれたって聞いたの」
「……うん」
「いつも元気な南が泣いてて、次は自分の番なのかなって思って」

 南泣いてたのか。
 そうだよな。好きになった人からフラれたら俺も泣くかもしれない。
 なのに今日にはいつもどおりに接してきてくれた。
 ありがとう南。

「だから、怖くてずっと避けてたの」
「そうだったのか」

 そして楓はニコッと笑い

「ねぇ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「俺に出来る事なら」
「一緒に夜景見よ? 折角の夜景なんだし」
「ああ、そうだな」

 二人で丘の淵にある柵まで移動する。
 一般的には函館山からの景色が有名だけど、ここの景色も凄く綺麗だ。

 夜景を見る楓の横顔も綺麗だ。
 だけど何処か寂しそうな表情をしている。

「楓、話があるんだ」

 俺がそう切り出すと、楓は一回目をキュッと瞑った後真っすぐ俺を見据える。

「はい」
「南からある程度聞いてるかもしれないけど、俺は一人の女性に決めた」
「……うん」

 ふぅ、と息を吐き大きく息を吸い込んで

「俺は楓とは付き合えない。俺の居場所は(ここ)じゃなかった」

 少しの沈黙の後

「私じゃ……ダメだったんだね」
「……ごめん」

 また少しの沈黙の後

「はぁー、ダメだったかぁ」
「……」
「一つ聞きたいんだけど、私の事嫌いになったとかじゃないよね?」
「そんな事無い。今でも楓は凄い魅力的だと思う!」
「そっか」

 短く返事をした後両手を挙げて伸びをした後

「なら、まだ私にもチャンスはあるね」
「え?」
「友也君が選んだ子と喧嘩したり別れたりしたらいつでも私の所に来ていいからね」
「はは、そうならない様に気を付けるよ」
「……ちゃんと大事にしてあげてね」
「うん、分かってる」
「なら良し。そろそろ帰ろっか、もうすぐ門限になっちゃうし」
「あ! ヤバいな。遅れたら強制送還させられそうだ」
「あはは、それは嫌だな~」

 
 こうして無事に楓にも気持ちを伝える事が出来た。
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