第110話 文化祭2日目②

文字数 3,551文字

 何処を周ろうかと考えながら歩いていると、妙に視線を感じる。
 視線の元は昨日のお客さんだったりするのだが、大体は見知らぬ男子生徒からだった。

 男子生徒の大半は羨ましそうな表情をしていた。
 こっちとしては迷惑なだけなのだが、その元凶に話しかける。

「おい、なんで腕組んでるんだよ」
「え~、こうした方が逸れなくていいじゃないですか~」
「人目を気にするっていう事はしないのか?」
「人の目を気にしてやりたい事やらないのは損すると思うんですよね」
「その考えは立派だが、取りあえず腕組むのはやめてくれ」
「もぅ、しょうがないですね~」

 何とか腕組みを止めさせて、再び何処を周ろうか考える。
 やっぱり昨日来てくれた友華さんのクラスは行かないとな。

 あとは柚希だけど、沙月を連れて行くのは嫌だなぁ。
 ハーレム計画が順調と勘違いさせそうだし。

 まぁ柚希に関しては明日でも構わないか。
 と、結論を出し沙月に伝える。

「これから友華さんのクラスに行くけど沙月はどうする?」
「友也さんと一緒ならどこでもいいですよ」
「さようですか」

 友華さんのクラスに向かって歩き出す。
 そしてまたもや視線が集中する。

 まさか沙月が何かしてるのかと見てみたが、普通に隣を歩いているだけだった。
 沙月じゃなくて俺に変な所があるんじゃないかと確認するが、特別変わった所は無かった。

 視線がどうしても気になったので沙月に聞いてみる。

「沙月、俺って変な所あるか?」
「そうですねぇ、こんな美人を振るなんてどうかしてます」
「そういうことじゃな……っ!?

 そうだったのか!
 視線の原因は沙月だったのか!

 今では沙月の性格も相まって慣れてしまったが沙月は美人と言っても過言じゃない。
 恐らくこの学校に居れば楓、南に並んで美人と噂されてもおかしくないのだ。

 そんな美人が他校からやってきたら見てしまうのは当然だ。
 俺に視線が集まってるなんてとんだ自意識過剰だった。

 改めて沙月を見るとやはり美人だな。
 こんな子と文化祭を周るなんて他の男子から妬まれても仕方ない。
 などと考えていると

「どうしたんですか? さっきから私の事じろじろ見て」
「いや、沙月は美人だなって再確認してたんだよ」
「え? そ、そうですか……」

 ん? 急に大人しくなったな。
 まぁ静かになったしいいか。


 友華さんのクラスである3年3組に到着した。
 考えてみれば演劇部の脚本を書いた事以外聞いていなかったので、何の出し物をやるか知らなかった。

 教室の入り口にある看板には

『ココア喫茶』

 と書いてあった。
 もしかして発案者は友華さんなんじゃ?
 と思いながら教室に入る。

「いらっしゃいませー」

 とエプロン姿の女子生徒が出迎えてくれた。

「カップル様ですね。こちらの席になります」
「いや、カップルじゃ……」
「ハイ! カップルです!」
「えっと、ご案内しますねー」

 カップルと間違われ訂正しようとしたが沙月が強引に割り込んできた。
 先輩にも面倒くさそうと感じたのかそのまま流された。

 案内された席は窓際の席だったが、何故かカーテンで仕切られていた。
 恐らくカップルが周りの目を気にしないでイチャつける様にの配慮だろう。

 席に着くと店員は

「こちらが通常メニューで、こちらがカップル専用メニューとなっております」

 と言って2種類のメニューを机に置き

「ご注文が決まりましたらそちらのベルを鳴らしてください」

 と言って仕切られた空間から出て行った。

 店員が居なくなると沙月は

「いやー、やっぱり周りから見たら私達恋人同士に見えるんですね!」
「多分違うと思うぞ? 男女で来た客全員に言ってるんだよ」
「はぁ、もうちょっと夢のある発言は出来ないんですか?」
「ならお望みどおりにしてやるよ」
「へ?」

 俺はそう言うと、カップル専用メニューを開く。
 定番のストローがハート型の飲み物やハート形のホットケーキ等がある。

「沙月、この純愛アイスココアとハートキャッチホットケーキでいいか?」
「え? は、はい大丈夫です」

 沙月に確認を取りベルを鳴らすと先ほどの店員がやってきた。

「お待たせいたしました。ご注文はお決まりですか?」
「純愛アイスココアとハートキャッチホットケーキください」
「っ!? かしこまりました。少々お待ちください」

 一瞬マジかコイツ! みたいな表情をされたが気にしない。
 いつも揶揄われている分、今日は俺が沙月を揶揄ってやるのだ。

「こうして二人でいるとあの時を思い出すな」
「あ、あの時というのは?」
「俺が元ぼっちだったって話した時だよ」
「あ、ああ、あの時ですか」
「いまなら分かるよ。こうしてると恋人同士みたいだなって」
「~~っ」

 沙月は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
 ふふふ、どうだ、まいったか!

 と考えていると、沙月は大きく深呼吸して

「ふふ、やっと私の魅力にきづいたんですか~?」

 コイツ! 乗っかってきやがった。
 だが此処で引いたらいつもと同じになってしまう。

「ああ、こんな美少女が一緒に居てくれるなんて幸せだよ」
「私も友也さんとこうしていられるのが幸せです」
「ははは」
「ふふふ」

 お互いに一歩も譲らない。
 恥ずかしがった方が負ける!

「失礼しまーす」

 と言って店員が入ってきた。

「こちらお先にお飲み物になります」

 と言って金魚鉢の様な入れ物にハート型のストローが刺さったアイスココアを置き

「それでは失礼致します。ふふ」

 と言って出て行った。
 最後少し笑っていた気がしたが気にしたら一気に正気に戻りそうだったのでスルーする。

「友也さん、すっごく大きいです」
「沙月、ジュースが溢れそうだぞ」

 なんだか物凄く卑猥に聞こえるのは俺が気にし過ぎているのだろうか。
 
 折角の飲み物なんだから上手く使わないとな。

「じゃあ友也さん、一緒に飲みましょう」
「ちょっと待て。このままじゃ飲みづらいだろ?」
「なんですか~? ひょっとして恥ずかしいんですか?」

 と勝ち誇った顔になるが

「こっちに来いよ、ほら」

 と言って少し脇にずれて席をポンポンと叩くと

「そうですね、そっちの方が飲みやすいかもです」

 と言って俺の隣に座る。
 元々一人分の席なので、二人で座ると色々と密着してしまう。

 沙月の甘い匂いや柔らかい感触が伝わって来る。
 それらを全部無視して

「ほら、もっとくっ付けよ」

 と言って沙月の肩を抱いて引き寄せる。

「ひゃっ! と、友也さん……」
「ほら、ちゃんと咥えて」
「は、はい」

 と二人でストローに口を付けた瞬間

「お、おまたせしましたー。ハートキャッチホットケーキに……」
「「あっ」」

 タイミング悪く店員が入ってきたのはしょうがない。
 しかし、今回入って来た店員がマズかった。

「ゆ、友華さん……」
「お、お姉ちゃん……」

 友華さんは見てはいけない物を見てしまったと勘違いしたのか

「ご、ごゆっくりーー」

 と言って出て行ってしまった。

「友華さん待ってー」


 その後何とか友華さんを捕まえて事情を説明すると

「そうだったんだすか、私はてっきり友也さんと沙月が只ならぬ関係なのかと」
「それは誤解ですから」
「え? 私とは遊びだったんですか!?
「沙月はちょっ黙ってて!」

 また一から説明をし、今度こそ誤解が解けた。
 そして気になっていた事を聞く。

「もしかしてこの『ココア喫茶』って友華さんのアイディアですか?」
「えっと、ココアを使った料理を出したいと提案したらこうなりました」
「そういえばホットケーキもココア味ですもんね」
「はい。メニューの品には全部ココア使ってます」

 いつもアイスココアを飲んでるから好きなんだろうなと思っていたがここまでとは。

 と感心していると

「でも時間は大丈夫なんですか? 確かステージに立つ人達は3時に集合だった筈ですけど」

 そう言われ時刻を確認すると14時30分を過ぎた所だった。

「ヤバイ! そろそろ体育館に行かないと」

 と言って席を立つと沙月が

「何かあるんですか?」

 と聞いてきた。
 隠しても直ぐにバレそうなので素直に伝える。

「実はこの後バンドでライブやるんだよ」
「えーー!? 友也さんって楽器出来るんですか!」
「いや、俺はボーカルだよ」
「ちょっと待ってください! そのライブって誰でも見れるんですか?」
「ん? ああ、見れるぞ」
「それはヤバイですね……」
「何がヤバいんだ?」
「いえ、こっちの話です」
「取りあえず時間無いからもう行くな。友華さんもすみませんでした」
「いえいえ、ライブ頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。行ってきます」

 と言って俺は急いで体育館に向かった。
 向かってる最中に沙月が呟いた言葉が引っかかっていた。

『それはヤバイですね……』


 俺には何のことか分からないが、今はライブを成功させる事だけを考えよう。
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