第132話 従姉妹

文字数 2,032文字

 俺の家から国道に出て真っすぐ走っている。
 バイクに乗るのは初めてだが、こんなに寒いとは思わなかった。
 水樹の言う様に暖かい服装をしておいて良かった。

 しばらく国道を走っていたが、いつの間にか市街地を走っていた。
 そして段々と住宅地に入って行く。

「何処に向かってるんだ?」

 と声を大きめに出して聞くが

「なに? 何か言ったか?」

 と、やはり走行中に会話は難しいみたいだ。

 しばらく住宅街の中を走ったと思ったら唐突に止まった。
 バイクから降りて水樹に尋ねる。

「ここは何処だ?」
「目的地はそこの家だよ」

 と言って水樹が指刺した家を見る。
 すると表札には『桐谷』の文字が刻まれていた。

「もしかして沙月の家か?」
「正解、ちょっと待ってろ、バイク仕舞ってくるから」

 と言って水樹は沙月の家の車庫に消えていった。
 まさかこんな形で沙月の家に来る事になるなんて思わなかった。

 しばらくして水樹が戻ってくると、迷わずインターホンを押した。
 それを見て

「ちょ、何してんだよ」
「何って家に上げて貰うんだよ」
「それは分かるけど、心の準備が出来てない」
「そんな物は準備するようなモンじゃないけどな」

 と、やり取りをしていると

「どちら様ですか?」

 とインターホンから返事が返ってきた。
 すると水樹は

「オレっす。孝弘(たかひろ)っす」

 と水樹が答えると、家のドアが開いた。
 中から出てきたのは友華さんだった。
 
「どうも、お久しぶりっす」
「久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「ちょっと沙月に用があって。帰ってきてます?」
「沙月ならさっき帰ってきましたよ……友也君!?」

 ようやく俺の存在に気づいた友華さんが驚いている。

「どうも、お久しぶりです」
「えっと、今日は二人で来たんですか?」
「はい。水樹に誘われて」
「そうですか、では立ち話はこれ位にして上がってください」

 
 家の中に通された俺達は沙月の部屋に向かった。
 水樹が慣れた感じで歩いていくが、俺は女子の家。しかも沙月の家という事で緊張していた。

 2階の一室の前で水樹が立ち止まる。
 ドアには『SASTUKI』と書かれたプレートが下がっていた。
 水樹は戸惑う事無くドアをノックする。

「は~い」

 という声と同時にドアが開いた。

「なんだ、孝弘か」
「そんな態度取っていいのか?」
「は? 意味わかりませ~ん。とっとと帰れ」
「だってよ、友也」

 と言って水樹は丁度ドアの影に居た俺の腕を掴んで引き寄せた。
 
「え? 友也さん? なんで?」
「いや、水樹に付き合って欲しいって言われて」

 未だに状況が理解できていない沙月に向かって水樹は

「せっかく来たけど、どうやらお邪魔みたいだから帰ろうぜ」

 と言って俺の肩を叩く。
 すると沙月は

「ちょっと待って! さっきのは無し! どうぞ友也さん、入ってください」
「全く、最初からそう言えよな」
「孝弘は帰っていいから。バイバイ」
「ふ~ん、友也は俺のバイクで来たんだけどな。俺が帰るなら友也も帰る事になるけど?」
「くっ! さすが孝弘、汚い」
「お前に言われたくねぇよ」

 沙月と水樹のやり取りを見ていると遠慮という物が一切感じられなかった。
 疑ってた訳ではないけど、本当に従妹なんだなぁ。

 こうして初めて沙月の部屋に入る事になった。
 沙月の部屋はとにかくカワイイ物でいっぱいだった。
 ぬいぐるみや小物、クッション等、これぞザ・女の子の部屋という感じだった。

 部屋に入り沙月に促されるままベッドに座る。
 しばらくして友華さんがお茶を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞ召し上がって下さい」

 というやり取りの後に水樹が

「んじゃ役者も揃った事だし始めますか」

 と言うと沙月が

「何しようっていうの?」

 と若干睨みながら言う。
 水樹はそんな沙月を無視して

「友也、沙月の噂は聞いた事あるか?」

 と言って来た。
 それにいち早く反応した沙月が

「孝弘!!」

 と声を荒げる。
 それに対し水樹は

「友也にはどこまで話したんだ?」
「私が男の人を落として遊んでたって正直に言ったわよ」

 沙月の返事を聞いた水樹は「やっぱりか」と言った後

「友也はそれを聞いてどう思った?」

 真剣な表情で水樹が聞いてくる。

「正直に言えば自己顕示欲が強いのかなぁって思った」
「それだけか?」
「そうだな。他には特に何も思わなかった」

 俺の言葉を聞いた水樹は「くくくっ」と笑った後

「やっぱり友也はサイコーだわ」

 と褒められた。
 そして水樹に続き沙月と友華さんも

「友也さんのそういう所に魅かれました」
「友也君らしいですね」

 皆から褒められて気恥ずかしい。
 そんな中水樹が

「それでさっきの話に戻るけど、噂は聞いたか?」

 沙月の噂というと、バイトの先輩が言っていた『男をとっかえひっかえしている』という噂のことだろう。

「ああ、知ってるよ」

 と答えると、水樹は「やっぱりか」と言った後に

「その噂の原因はな、実は俺の所為なんだ」

 ん? 沙月の噂の原因が水樹? 一体どういう事なんだ?
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