第95話 クラス会議

文字数 2,713文字

 翌日、LHRの時間がやってきた。
 教壇には担任ではなくクラス委員の二人が立っている。

 出された案を黒板に書いている女子が島田瞳(しまだひとみ)
 皆に意見を求めて纏めているのが男子のクラス委員の滝沢彰人(たきざわあきと)だ。

 黒板には既に幾つかの案が書かれている。

 ・お化け屋敷
 ・たこ焼き屋
 ・チョコバナナ屋
 ・演劇
 
 等々、やはり定番の出し物が名を連ねる。
 滝沢が他に無いかと聞くと、聞きなれた大きな声が教室に木霊する。

「メイド喫茶がやりたい!」

 そう言ったのはやはり田口だった。
 やはりブレないな。

 滝沢が島田に指示して黒板に促す様にしていると、一人の女子が

「メイド喫茶ってあたし等が大変じゃ~ん、男子は何すんのよ~」

 そう言ったのはギャルグループのリーダー早川麻耶(はやかわまや)だった。
 いつも女王様の様に振る舞っているが、楓とは違ったカリスマ性を持っている。
 長い髪を金髪に染め、ネイルやアクセサリーが派手だ。
 目は大きく少し吊り目なので睨まれると怖い。

 早川の発言に対して田口は

「料理つくったり、呼び込みしたりとかするよ~」
「はぁ? そんなもん女子でもできるんですけど?」
「え~と、看板? とか作るし……」
「それは準備の段階で皆で作るもんじゃないの~?」

 完全に言い負かされた田口は大人しくなり、そのまま力無く座った。
 まぁ早川の言い分が正しいからな。
 メイド喫茶はどうしても女子に負担を掛けてしまう。

 二人のやり取りを見ていた滝沢が

「それじゃあメイド喫茶は無しでいいかな?」

 と皆に確認を取ろうとした時、再び早川が

「あのさ~、いい案があんだけど~」
「良い案っていうのは何かな?」
「執事喫茶なんてどう? 最近そういう系のドラマもやってるし~」

 おぉ、ギャルの早川の口から執事喫茶という単語が出てくるとは。
 アニメの実写化の影響なのだろうか。

 俺が内心で驚いていると、意外にも女子達の反応も悪くない。
 しかしここで反論する奴がいた。田口だ。

「メイド喫茶がダメなら執事喫茶もダメだろ!」
「はぁ? 何でダメなのか詳しく聞こうじゃない」
「男子が接客するって事は裏方はどうするんだよ? 女子だけで回せるのか?」
「別に男子全員が接客する必要はないっしょ。イケてる奴だけで十分だし」
「え~と、ん~と」
「はい、終了! 執事喫茶で決まりね~」

 またも言い負かされる田口。可哀想になってきた。
 そして執事喫茶が黒板に書かれる。

 メイド姿の楓と南を見て見たかったがしょうがない。
 と思っているとスマホが震えた。

 担任にバレない様に確認すると楓からだった。

〈私はメイド喫茶やりたかったなぁ。残念〉

 というメッセージだった。
 俺も残念だ。と送り返そうとした時、今度は水樹からチャットが来た。

〈田口を助けてやってくれ〉

 内容を確認し、水樹の方を見ると両手を合わせて拝んでいた。

〈どうして俺なんだ? 水樹がたすけてやればいいだろ?〉
〈俺はこれ以上手助けが出来ない〉
〈意味が分かんない〉
〈後で事情は説明するから頼む〉

 いつもなら水樹が何かと面倒見ていたが、夏休みの間に何かあったのだろうか。
 水樹には藤原の件でも助けて貰ったしな。

〈分かった。でも余り期待するなよ〉
〈すまん、助かる〉

 俺はスマホを仕舞い、隣の及川に小声で話しかける。

「及川、ちょっといいか?」
「なに? どうしたの?」
「中居の執事服姿見たいか?」
「ちょ、い、いきなり何言ってんのよ!」
「真面目に答えてくれ」
「み、見てみたい……かも」
「よし。なら俺に協力してくれ」
「は? 協力って何を?」
「とりあえず俺の意見に賛同し続けてくれればいい」
「いや、意味わかんないんだけど」

 及川との会話もそこそこに、俺はちょっとだけ手を挙げて

「ちょっといいか?」

 すると滝沢が

「何かいい案でもあるのかな?」
「ああ、とびっきりの妙案がある」

 それを聞いた早川が早速噛みついてくる。

「もう執事喫茶で決まったんだからさ~、口出さないでくんない?」

 ギャルというだけで苦手なのに敵対心まで持たれるとやりにくい。
 だが、今の所は計算通りだ。

「いや、まだ決まってないだろ? 候補の一つに挙がっただけだ」
「は? だから何だってんの?」
「候補に挙げるだけならメイド喫茶も候補の一つでもいいんじゃないかと思ってさ」
「あんたもメイド好きな訳? キモ」

 キモいとか最近言われてなかったので結構なダメージを受ける。
 しかしここからが本番だ。

「キモイかどうかはともかく、メイド喫茶も候補に入れて欲しいってだけだ」
「はっ! 勝手にすれば~」

 その言葉が聞きたかった!

「それで、俺が提案するのはメイド喫茶と執事喫茶の両方をやる事だ」

 俺の言葉を受けて教室内がざわつくが気にしない。

「女子はメイドの恰好して男子は執事の恰好する。こうすればお互いの意見が全部通るだろ?」
「あんたさ~、さっきの話聞いて無かった訳? そしたら裏方とかどうすんのよ~」
「それこそさっき早川が言っただろ? イケてる男子女子だけ接客すればいい。幸いウチのクラスは中居や水樹といったイケメンが居るし、女子は楓や南、それに早川だって居るしな」
「なっ!」

 ここで俺は及川に合図を送る。
 及川は小さく頷き

「それいいかもー! 美男美女だらけの喫茶店とかヤバくない!」

 及川の言葉を切っ掛けに

「確かに両方楽しめるな」
「美男美女喫茶とかヤバイだろ。売り上げトップ行くんじゃないか?」
「これが男女平等喫茶だ」

 と俺の意見に賛同する声がチラホラと聞こえ始めた。
 早川は悔しそうに俺を睨んでいる。

 怖いので早く終わらせよう。

「それじゃあ美男美女喫茶に賛成の人は……」

 多数決を取ろうとした所で早川が割って入ってきた。

「ちょっと待ちな!」
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
「大事な事聞かなきゃなんないでしょう~?」
「大事な事?」
「言い出しっぺのあんたは当然執事になるんだよね~?」

 早川のその言葉で教室が沸く。
 男子のリーダーは俺がやれ等のヤジが飛んでくる。
 味方だと思っていた中居や水樹、楓や南、及川までもが結束していた。

 結局俺が執事のリーダーに祭り上げられてしまった。
 このままじゃやられっぱなしだと思い、怖いけどそれを抑え込んで思い切って早川を指差し

「早川は執事喫茶の言い出しっぺなんだからメイドやれよな!」

 俺の言葉に再び教室が沸く。
 早川は苦虫を噛み潰した様な表情で

「やってやろうじゃない! こうなったら男子と女子で売り上げどちらが稼げるか勝負しようじゃない!」

 熱くなっていた俺はつい

「その勝負受けてやる! 皆! 早川達に勝つぞー!」

「「うおおおぉぉぉ!!」」

 こうして俺達のクラスの出し物はメイド&執事喫茶に決定した。
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