第103話 HELP!

文字数 2,111文字

 「「はぁあ?」」

 俺と中居が同時に声を挙げる。

 田口に女子の知り合いができたのは良しとしよう。
 だが、女子の方から連絡先を聞いてきたなんて……。

「物好き……変わってんなその女」
「ちょ、中居君、それ言い直せてないから!」
「田口、真剣に聞いてくれ」
「どうしたの佐藤君、そんな真剣な顔して」
「それは多分、美人局だ」
「佐藤君まで! 人の運命の人を悪く言わないでくれよ~」
「「すまん、予想外すぎてつい」」
「だからどうして二人でハモんのさ!」

 驚天動地とはこの事か!
 中居も動揺を隠せていない。

 俺達が面食らっていると、水樹がどうしてそうなったのか説明してくれた。

「つまり中居を怒らせてテンション低い田口に惚れたって事?」
「まぁ、そう言う事になるな」

 テンションが低い田口か。
 う~ん、想像出来ないな。
 そう考えていると、同じ事を考えていたのか、中居が

「その時のテンションで喋ってみろ」

 と田口に要求した。
 すると田口は

「分かった。ちなみに既にそのモードに入ってるからな」
「よし、お前の好きなタイプは?」
「そうだなぁ、これといったタイプはないけど、強いて言うなら君みたいな子かな」
「ブフォッ!」

 中居が耐え切れずに噴出した。
 こんな中居は初めてみたな。

 それに田口のはテンション低いというよりもキザッたらしくなっている。
 面白そうなので俺も質問してみる。

「運命の人の何処が好きなんだ?」
「ナンセンスな質問だね。俺達は好き嫌いでは測れない運命で結ばれてるからね」
「くっ……くく!」

 わざとやってるのか? まるで別人じゃないか。
 笑いから復活した中居が真剣な顔で

「田口、これは詐欺だ。今すぐ本性見せてこい」
「ちょ、そんなに違うんかな~」
「お、元に戻ったな」

 どうやら自覚が無いらしい。
 ここで気になったのが

「ところで運命の人の名前は? 知っとかないと俺達が呼ぶとき困るし」

 と俺が聞くと、今度は水樹が噴き出した。

「なんだよ、そんなに変な事聞いたか?」
「いや、そうじゃないんだ。友也は運命の人の名前は知ってると思うぞ?」
「え? 俺が知ってるってどういう事?」

 と聞くと、田口が

「恭子ちゃんだよ~。文化祭でも佐藤君話してたじゃん」
「は? マジで?」

 俺が驚いていると、片山さんを知らない中居が

「佐藤も知ってるのか。どんなヤツなんだ?」
片山恭子(かたやまきょうこ)って言って身長は低いけどスタイルは良いかな」

 俺が説明すると

「まぁ、とにかくやっと田口に春が来たって訳か」
「ありがとう~、俺、絶対幸せになるから!」
「幸せにするんじゃないのかよ!」
「「ははは」」

 何はともあれこれで田口も少しは落ち着くだろう。
 かといって、あのキザッたらしいのはもう勘弁して欲しいが。

 
 朝から準備をして、内装等はほぼ終わった。
 後は衣裳と調理係が終われば準備は終わりと言ってもいいだろう。

 残りの細かい飾りを作っていると、突然勢いよく教室のドアが開いた。
 入り口の方を見ると、他クラスの生徒が辺りを見渡している。

 偵察にでもきたのか? 
 と思っていると

「あっ! 水樹、助けてくれー」

 と言いながらこちらにやってきた。
 水樹はやれやれと言った感じで

「どうしたんだ(じゅん)

 純と呼ばれた生徒は慌てた様子で

「もう水樹しか頼れる奴いなんだよ~」
「だから、何があったんだって聞いてるだろ?」
一成(かずなり)が扁桃腺腫れて寝込んじゃったんだよ~」
「あいつ確かボーカルだったよな。どうするんだステージは?」
「だから水樹に頼みに来たんだって」
「ああ、そういう事か」

 どうやらバンドのボーカルが急遽出れなくなって水樹を頼ってきたらしい。
 それにしても水樹は顔が広いな。

「それで? どんな曲歌うんだ?」
「えっと、これが曲リスト!」

 水樹は渡された曲リストを眺める。
 そして水樹は丁寧に断った。
 こういった頼み事は断らないと思っていたので意外だ。

「すまない、俺が歌える曲がないんだ」
「そんな~、水樹がダメならどうすればいいんだー!」

 純という人物は頭を抱えてしまう。
 水樹でも歌えない曲なんてあるんだなと思い曲目を見てみる。

「っ!?]

 曲目を見て納得した。
 曲の殆どがアニソンだったのだ。

 正しく言えばアニメとアーティストがタイアップした曲だが、普通の人が知らなくても無理はない。
 俺が曲目を見ていると、水樹が「そういえば!」と声を発すると

「この曲、友也歌ってなかったか? あとこれも!」

 水樹に指摘された曲は以前の合コンの時に歌った曲だった。
 よくそんな事覚えてるなぁと感心しながらも

「ああ、歌ったな。ちなみにこの曲目で知らない曲は無いぞ」
「やっぱりか!」

 そう言って水樹は俺の肩に手を置き

「頼みたい事がある」
「分かってるよ、教えればいいんだろ?」

 まぁ、水樹の頼みを断れるはずもないし、元から教えるつもりだった。
 しかし、水樹から予想もしていなかった言葉が発せられた。

「友也、お前がステージに立て」
「え?」
 
 俺の聞き間違いだろうか?
 俺がステージに立てと聞こえたんだが。

 と理解が追いつかない俺に水樹は

「お前がボーカルとしてステージに立つんだ」

「「えええぇぇぇ!?」」

 俺だけでなく、バンドの奴も驚いていた。
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