第160話 忘年会

文字数 3,394文字

 女子達が――恭子ちゃんが到着した事で、やっと俺達は田口の惚気から解放された。
 恭子ちゃんとの事をペラペラと話したのがバレて今は恭子ちゃんに説教されている。
 と、ここである事に気づいた。

「あれ、及川は?」

 俺がそう口にすると中居が呆れた様に

「どうせまた遅刻だろ。アイツ全然直さねぇんだよ」
「そっか。柚希達もまだ来てないし取りあえず飲み物だけ頼んで全員揃うまで待とう」

 女子達にも席に座る様に伝え、元居た席に戻る。
 みんな思い思いに話し始める。
 すると話題が連日報道されているニュースの話になった。

「そういえば全然犯人捕まんないね~」

 と南がうんざりした顔で言う。

「ね~。でもどうして南がそんな顔するの?」
「だってさ~、今回の事件と私が好きなアニメを無理やりこじつけてアニメを批判されるんだもん」
「あ~、確かにアニメの影響が~とか言ってるね」
「何でもかんでもアニメの所為にしないで欲しいな」

 南にしてはまともな意見だな。その意見には激しく同意だ。
 確かに残酷描写や犯罪を犯すマンガ等あるけど、それらの影響で犯罪を犯すか? といったら殆どの人がNOと答えるだろう。そもそもアニメばかり批判してるがドラマはどうなんだって話だ。ドラマの方が見てる人数も多いし年齢層も幅広い。なのにアニメばかり特筆するのはおかしい。

「どうしたのトモ、難しい顔して」
「え? ああ、南の意見はもっともだなって考えてたんだ」
「そっか! 友也君もアニメ好きだもんね」
「今じゃその面影はないけどね~」
「はは、でも今でも録画したやつとか見てるよ」
「たは~、やっぱりトモはトモか~」
「ふふ、それが友也君だもんね」

 楓と南の言う通り今でも俺はアニメが好きだし、そんな俺を理解してくれる仲間と出会えて良かった。
 それにしても南がアニメみてるとはなぁ。今度アニメについて話してみたいな。
 そんな事を思いながら南に意識を向けると、今度は水樹に絡んでいた。

「ねぇねぇ、外に停まってたバイクって水樹のだよね!」
「ああ、そうだけど」
「バイク大きいね~。後ろ乗せて~」
「悪いな。女は彼女しか乗せないんだ」
「じゃあ一日だけ彼女になるから乗せてよ~」

 と子供みたいに駄々をこねる南だが

「ちょっと南! 何言ってんの!」
「ごめんごめん、冗談だって」
「冗談でも行っていい事と悪い事があるでしょ! もし水樹が真に受けたらどうするの」
「うぅ~、ごめんなさい」

 と楓お母さんから叱られた。

「水樹ごめんね~」
「ははは、別にいいって。乗せる訳にはいかないけど近くで見るか?」
「いいの!? 見る見る!」

 と言って二人は外に出て行ってしまった。
 
「ふふ、南はいつも元気だね」
「ああ、あのテンションを維持できるのが凄いな」

 あれ? もしかして今楓と二人きりなんじゃ?
 田口は別のテーブルで恭子ちゃんに説教されてるし、中居もテーブルの隅で外を眺めてる。
 完全に二人きりって訳じゃないけど、今は隣に座ってる楓以外話す相手がいない。
 なんだか緊張してきた。何を話せばいいんだ? 
 と一人でテンパっていると

「そう言えば柚希ちゃんから今日話があるって聞いたけど何かあったの?」
「え? あ、ああ。ちょっと色々あってな。詳しくは柚希が話すから聞いてやってくれ」
「そっかぁ。電話越しだけど以前の柚希ちゃんと違う気がしたんだよね」
「やっぱり楓は鋭いな」
「ありがと。でも、変わったのは友也君もだよ」
「え、俺?」
「うん。凄く格好良くなった」

 顔を赤らめてモジモジしながら言われると破壊力がヤバイ!

「私と付き合ってた頃より全然格好良くなったよ!」

 と俺の目を見つめながら言う。
 楓にこんな事言われるなんてな。別れてから色々あったし、沙月と付き合った影響もあるだろう。
 だけど俺が成長出来たのは初恋の楓のおかげでもある。

「楓、本当にありがとな」
「どうしたの急に」
「まぁ、日ごろの感謝みたいなものだよ」
「それなら此方こそだよ。ありがとう」

 改めてお礼を言い合うってなんかむずがゆいな。
 それに楓の包容力が限界突破でヤバイんです! 誰か早く来て!
 と、心の中で密かに祈っていると

「やっぱりバイク乗りたいな~」
「ダーメ」
「水樹のケチー」

 バイクを見に行っていた二人が戻って来た。
 神様ありがとう!

「どうだった南、水樹のバイクは」
「すごく……大きかった」
「そうだろ? 走るとスッゲー気持ちいいんだよ」
「え! もしかしてトモ乗った事あるの?」
「うん、2回位乗ったかな」

 俺がそう答えると南が水樹に食ってかかる。

「ちょっと水樹! 彼女しか乗せないんじゃなかったの!」
「その通りだけど?」
「じゃあ何でトモは乗せてるのさ!」
「……そういう事なんだ。今まで黙ってて悪い」

 と言いながらこちらに目配せをしてくる。
 全く、水樹も人が悪い。

「そういう事って……はっ! まさか!」

 脳が揺れるんじゃないかという程のスピードで振り向く南に対して

「悪い。実は俺達両想いなんだ」
「そ、そんな……。だってトモは沙月ちゃんと……」
「勿論沙月は好きだ! だけど、それと同じ位水樹の事が!」
「そ……んな……」

 腰が抜けた様に床に座り込んでしまう南。
 流石にやりすぎたかと思い水樹にアイコンタクトを送る。

「ああ、俺達は親友だ!」
「さすが水樹! これからもよろしくな!」

 水樹と熱い握手を交わす。
 すると南がスッと立ち上がり

「もー! やっていい冗談と悪い冗談があるんだからねー!」

 と叫びながら俺の胸を泣きながら叩く。
 これはちょっとやりすぎたな。

「ごめん、南。からかい過ぎた」
「マジでごめん。何でも言う事聞くから許してくれ」

 ん? 今なんでもって言った?
 南はまた物凄い勢いで水樹に向き直り

「それじゃあバイクに乗せて♪」
「えっと、それは……」
「なんでも言う事聞くんじゃなかったの? 男に二言はないよね?」
「……ったく、しょうがないか。今度乗せてやるよ」
「やったー!」
「でも、それ一回だけだからな」
「分かってるって~」

 すっかり機嫌が良くなった南は早速楓の所に行き自慢している。
 それを見て水樹と一緒に肩を竦めていると中居が

「水樹、外で佳奈子見なかったか?」
「いや、見てないな」
「チッ! ったくアイツは」

 いつも以上に機嫌が悪いな。

「まぁまぁ、ゆっくり待とうぜ。な?」
「そうそう。連絡とかしてみたのか?」
「連絡しても返事ねぇんだよ。それに今日は遅刻ってレベルじゃねぇだろ」

 そう言われて時刻を確認すると、既に19時を周っていた。
 確かに及川は遅刻の常習犯だけど必ず連絡は来るし、遅れても精々20分程度だ。
 それに

「柚希と沙月も来てないよな?」
「そういえば遅いな」
「沙月が家を出たって連絡してきたのが17時半頃だからとっくに着いててもいいだろ」
「確かにな。友也、二人に連絡してみろ」

 スマホを取り出し柚希に電話をするが繋がらない。
 ならばと沙月の方にも電話を掛けるが、こっちも繋がらない。

「ダメだ。どっちも繋がらない」
「途中で何かあったのかもしれないな」
「ってぇ事は佳奈子もそれに一枚噛んでる可能性が高いな」
「よし。俺がバイクで探してくるわ」
「ああ、頼む」

 水樹が捜索に向かおうとしたその時、及川が店内に入ってきた。
 きょろきょろと辺りを見回して俺達を発見すると、たどたどしい走りでこちらにやってきた。

「佳奈子! 心配させるんじゃ……っておい! どうした!」

 ガタガタと身体を震わせながら涙を流し、中居にしがみ付く。

「か、かず……き……。ふ、ふた……さら……ぐすっ」
「大丈夫だから落ち着け。何があった?」
「中居、水持って来た」
「サンキュ。ほら、飲めるか?」

 中居から水を受け取ると、それを一気に飲み干した。
 水を飲んだ事で少し落ち着いたのか、中居から離れると

「た、大変! 大変なの!」
「落ち着けって。何が大変なんだ?」
「車が柚希ちゃんで沙月ちゃんがだめなの!」

 まだ混乱しているらしく何を言いたいのか分からない。
 どうするかと悩んでいると、突然中居がパンッ! と及川の顔の前で手を叩いた。

「どうだ? 少しは冷静になったか?」
「う、うん。ありがとう和樹」
「んで、何があったんだ?」

 その場の全員が及川に寄り添うように集まっていた。
 冷静になったとはいえ微かに震える及川の口から


「二人が……柚希ちゃんと沙月ちゃんが攫われたの!」


 そう告げられた。
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