第105話 ミートパスタ

文字数 3,260文字

 文化祭当日まであと2日迄迫ってきていた。
 飾り付けや衣装も出来上がり、後は本番を待つだけとなっていた。

 クラスの出し物は殆ど終わったが、俺には明日バンドのリハーサルがあった。
 バンドの他にも演劇部等も一緒にやるらしい。

 正直今でもステージに立つのは怖い。
 それでも逃げないとあの時誓った。

 やれるだけやろう!
 と意気込んでいると、教室の後ろがざわつきだした。

 なんだ? と思い話を聞いてみる。

「調理係がやらかしたんだよ」
「やらかしたって、何をだ?」
「メニューの一つが完成してないらしい」

 なるほど。
 しかしメニューによっては削るのも選択肢の一つだな。

 調理係に何のメニューが完成していないのか聞くと

「ミートパスタのソースがどうしても旨く出来ないんだ」
「ミートパスタか……」

 よりによってミートパスタとは……。
 中居のリクエストだから削る訳にもいかないな。

「今どんな感じなのか味見させて貰っていいか?」
「ああ、それなら家庭科室に来てくれ」
「分かった、後から行くから先に行っててくれ」

 そう言うと調理係は家庭科室に向かった。
 
 俺は黒板の前でメイド服を試着している女子達に向かった。
 
 目的は及川だ。
 ミートパスタが大好きな及川なら何かアドバイス出来るかもと考えた。

 女子グループの所迄行くといきなり後ろからチョークスリーパーをかけられた。

「トモー、どう? 似合ってる?」
「……」
「ねぇ聞いてるの~?」

 く、苦しい……。
 俺が必死に腕をタップすると

「あっ、ごめん」

 と言って俺を開放した。

「ゲホッゲホッ……」
「ご、ごめんね~」
「いきなり何すんだ。マジで苦しかったぞ」
「いや~、トモと話すの久しぶりだったからつい」
「ついで殺されてたまるか!」
「そんな事より何か用なの?」

 南の奴話を変えやがった。
 まぁいい。今は及川だ。

「及川、ちょっといいか?」

 及川はキョトンとした顔で

「どうしたの?」

 と聞いてくる。
 その首を傾げるのはやめなさい! 可愛いでしょ!

 なんて考えていると、トトトッと俺の近くまだ来て

「何か用? 今楓をイジるので忙しいんだけど」

 楓を見ると顔を赤らめてへたり込んでいた。
 一体何をしてんだ! 

「及川ってミートパスタ好きだったよな?」
「違うよ」
「は?」

 え? 今まで散々食べてきて好きじゃない?
 いやいや、そんな筈はないはず……。

 と及川の返答に動揺していると

「好きなんじゃないの。 愛してるの!」
「……」
「な、何よ!」
「いや、さすが及川だなと思っただけだ」
「何それー、馬鹿にしてるでしょ~」
「してないしてない」

 なんだよビックリした~。
 愛してると言い切る及川なら任せても大丈夫だろう。

「実は調理係がミートパスタの味付けが上手く行かないらしくてさ、味見してくれないか?」

 俺の言葉を聞いた及川は、目を輝かせながら

「食べれるの!? 数々のミートパスタを食べてきた私に任せなさい!」
「それじゃあ家庭科室まで一緒に来てくれ」
「オッケー」

 こうして及川と家庭科室に向かおうとすると、楓に呼び止められた。

「友也君まって。料理の味付けなら私も自信あるよ」
「確かに。じゃあ楓も一緒に……」

 行こうと言おうとした時、南が割って入った。

「ハイハイ! 私も料理に自信あります!」

 そういえば夏休みに食べさせて貰ったけどかなり美味しかった。
 料理が出来る存在が増えて困る事はないので、南も連れて行く事にした。

「よし、じゃ今度こそ行くぞ」

 と教室から出ようとすると、再び呼び止められた。

「友也ー、ちょっと待ちな!! 話聞こえてきたんだけどさー、それ、あたしも参加するから」

 呼び止めたのは早川だった。
 早川は看板の一件以来、俺を名前で呼ぶようになった。
 
 早川に認められたのかな。
 と、俺なりに答えをだした。
 しかし何故早川が引き止めるんだ? と疑問に思っていると

「友也さー、私の事料理出来ないって思ってるっしょ? いい機会だから料理出来る所みせてやるよ」
「いや、そんな事は思ってないぞ?」
「はぁ? 係決める時に料理出来ない奴には分からないとか言ってたじゃん」
「あれは例えで言ったんだよ」
「それでも! 私の料理で友也の胃袋鷲掴みにしてやるから」

 早川はそう言って教室から出ていった。

「いてっ!?

 急に両腕に痛みが走り腕を見てみると、楓と南が鷲掴みしていた。

「ちょ、二人とも痛いって」

 と言うが聞こえていないらしく、楓と南が何やら呟いている。

「友也君は誰にでも優しいから仕方ないけど……」
「トモの良い所だとは思うけど……」

「「絶対に負けられない!」」

 どうやら早川の態度が二人に火を付けてしまったようだ。


 家庭科室に到着し、早速及川に味見を頼んだ。
 一口食べた及川は

「ダメ。全然ダメ。こんなのでミートパスタ名乗って欲しくない」

 感情の消えた目でそう呟く。
 調理係の面々は恐怖で震えている。

 楓達も味見をすると

「ん~、これじゃお客さんに出せないね」
「たはー、これはヒドイよ」
「こんな物私に食べさせないでくんない」

 と楓・南・早川は口々に感想を言う。

 ここまで言われる調理係が不憫に思えてきた。

 と、そんな事よりも

「どうだ? 何とかなりそうか?」

 と聞くと、三人一致で一から作った方が早いとの事だった。


 トントントントンッと子気味良く包丁の音が聞こえる。
 その音の主は俺に向かって

「どうだ! これでも料理出来ないとか言うの?」
「いえ、素晴らしいです」
「分かればいいんだよ」

 と言って再び調理に戻る。

 楓と南の様子を伺うと、黙々と調理している。
 どこか殺気さえ感じられそうだ。

 そして何故か柚希も参加している。

 三人が調理に掛かろうとした時、偶然家庭科室に来た柚希が

「面白そうだから私も参加する!」
 
 と言い出した。
 それを聞いた三人は

「なるほど、家庭の味って事ね」
「ふふふ、誰が相手でも罹ってきなさい」
「え? 友也の妹なん? なら断る訳にはいかないっしょ」

 そう言って何故か料理対決が始まった。
 及川は及川で沢山食べれる! と言って喜んでいた。


 四人が調理を初めて1時間程経った。

 俺と及川の前には四つのミートパスタが並んでいる。
 どれから食べようか悩んでいると

「お兄ちゃん、私のから食べて」

 と言われたので柚希の物から食べる事にした。

 その後、早川・南・楓の順番で食べ、感想を求められる。

「どうだったお兄ちゃん」
「友也君、感想聞かせて」
「トモの胃袋は私が掴んだよね?」
「どれが一番美味しかったか早く言いなよ」

 と、まるで取り調べを受けている犯罪者の様に詰問される。
 どうしようか悩んだ末、先ずは及川の意見を聞く事にした。

「及川はどれが美味しかったと思う?」

 ミートパスタを愛してるとまで言った及川の意見に乗れば角が立たないと思ったが

「全部美味しかった」
「……それだけ?」
「え? 美味しい意外に感想あるの?」

 とキョトンと小首を傾げる。

 及川、もしかしてお前は……。
 いやいや、そんな事より今は自分だ。

 どうする? どう答えるのが正解なんだ?
 と頭を悩ませていると楓が

「正直に言ってね。変な思いやりとかはいらないから」

 そう言われ、俺の答えが決まった。
 いや、最初から決まっていた。

「正直に言うと……」

 ゴクッと柚希以外の三人が固唾をのんで見守る中、俺は一番美味いと思った皿を前に出す。

 それをみた三人は

「「「やっぱり家庭の味か~」」」

 と肩を落とす。

 俺が選んだ皿は柚希の物だった。
 三人とも美味しかったけど流石は妹。俺の好みの味を完全に把握していた。

 選ばれた柚希は

「これで私の優勝ですね。それじゃ用事があるのでもう行きます」

 と言って家庭科室から出て行った。
 その後ろ姿を見ていた楓と南は

「「もしかしたら柚希ちゃんが一番のライバルかも」」

 と溢していた。

 結局、ミートパスタは三種類作る形になった。
 優勝は柚希だが、文化祭当日に作れないと意味がないからだ。

 こうして波乱の料理対決は幕を閉じた。


 因みに及川は四皿とも完食していた。
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