第123話 友達

文字数 2,623文字

 強く抱き締めた後、力を抜いて南を起き上がらせる。

「……トモ?」

 キョトンとしている南に向かって

「大事な話があるんだ」

 と真っすぐ南の目を見る。

 何かを察したのか、南は俺の上からどくと横で正座をする。
 俺も起き上がり姿勢を正す。

「大事な話ってなに?」
「俺、やっと自分の気持ちに整理が出来たんだ」
「それじゃあ誰を選ぶか決まったってこと?」
「ああ」
「そっか」
「俺は……」
「ちょっと待って! 心の準備させて!」

 と言い南は深呼吸を何度か繰り返す。
 そして

「うん、もう大丈夫!」
「じゃあ改めて、俺が好きなのは……」



 俺の素直な気持ちを南に伝えると

「そっかー、やっぱダメだったかー」

 と言って分かりやすく肩を落とす。

「ごめん、長い間待って貰ったのに……」
「ホントだよー。期待させるだけ期待させといて振るんだもんな~」
「……ごめん」
「それにさっき抱きしめてくれたのはなんで?」
「それは……感謝の気持ちというかなんというか……」
「そっか、トモなりの情けだったんだね」
「……ごめん」
「まったく、乙女心弄んじゃって~」
「……悪い」

 この件に関しては何も言い返せない。
 これで絶交されても受け入れる覚悟だ。

「本当に悪いと思ってる?」
「ああ、心の底から悪いと思ってるよ」
「だったら……」

 ゴクッ。
 一体なにを言われるのだろう。

「私と親友になって!」
「……え?」
「私がトモの()()()()()ってこと。いや?」
「そんな事はない! ただビックリしただけだよ。てっきり絶好とか言われるんじゃって思ってたから」
「普通ならそうなっても仕方ないと思う。それだけの事をしたんだしね」
「ああ、だから南の発言が信じられなくて……」
「でもそれは普通に考えたらでしょ? 残念! 私は普通ではありません!」
「ッ南!?」
「だから私は友達として一番になりたいの」

 こんな俺をまだ慕ってくれて、しかも一番の友達になりたいなんて言ってくれるなんて……。
 俺は南を好きになって良かった。

「これからも宜しくね!」

 と言って抱き付いてきた。

「ちょ、南! 友達なんだから抱き付くのはおかしくないか?」
「え~、ちょっとしたスキンシップだよ~」
「いやいや、欧米か!」

 と、やり取りをしていると不意に部屋のドアが開いた。
 そして中に入ってきたのは主任だった。

「おや? お邪魔してしまいましたかな?」

 と言われたので慌てて否定する。
 それと同時にどうしてこんな事になったかも説明した。

「なるほど、そういう訳でしたか」
「そうなんですよ、どうやって部屋に帰ればいいか分からなくて……」
「確認なんですが本当に何もしてないですよね?」
「絶対にしてないです!」

 と強めに否定すると

「この部屋は昔とあるカップルが不純異性交遊をしていた事があるんです」
「あっ、それ都市伝説みたいな感じで聞きました」
「そのカップルがどうなったか知ってるかい?」
「いえ、知りません」
「結婚して幸せにくらしてるよ」
「そうなんですか、よくご存知ですね」
「まぁ、そのカップルというのが私と妻なんだけどね」
「……」
「「えええぇぇぇ!?」」

 まさか主任が都市伝説の張本人だったなんて!
 もしかしたらこの部屋の掃除は主任がやっていたのかもしれないな。

「それってここでエッチすれば結ばれるって事ですか?」

 なんて事を聞いてるんだ南は!
 そんなの答えてくれるはずが……

「そうだねぇ、この部屋のお蔭で結ばれましたって手紙は貰うかな」

 って主任も何真面目に答えてるんですか!

「トモ!」
「どうした?」
「エッチしよう!」

 俺は無言で南の頭にチョップする。

「いた~い」
「いた~いじゃないだろ。友達宣言はどうした」
「いや~、ははは」

 笑ってごまかしやがった。

 今のやり取りを見ていた主任が

「佐藤君はこの子と付き合ってる訳ではないんだね」
「……はい、他に好きな人が居るので」
「もしかしてそれは楓ちゃんかな?」
「えっと、それは、ははは」

 本人に伝える前に叔父さんに知られる訳にもいかないので俺も笑って誤魔化す。

「まぁ、一度切りの人生だ。沢山悩んで、自分が本当に大切に思える人を見つけるんだよ。後から後悔しない様にね」
「はい、ご忠告有難うございます」
「うん、それではそろそろここから出ようか」
「あの、先生達が居るので部屋に戻れないんです」
「ああ、そうだったね。私に任せてもらえないかな?」
「は、はぁ」

 主任はイヤフォンマイクで何やら話した後

「5分後にここから出て部屋に向かってください。その時には先生達の見張りもないと思いますので」
「あ、ありがとうございます!」
「お礼なら将来また泊まりに来てくれると嬉しいね。では私はお先に失礼するよ」

 と言って部屋から出て行った。

 主任が部屋から出た5分後、恐る恐る俺達も部屋から出る。
 そしてエレベーターの方を見ると、主任の言っていたとおり見張りの先生が居なかった。

「南、今のうちだ! 行くぞ」
「へい、親分」
「誰が親分だ!」
「そんな事はどうでもいいから早く」

 くそ、先にふざけたのは南なのに納得いかない。
 しかし文句を言っている場合ではないのでそのままエレベーターに乗り込む。

「主任の言ったとおり何とか此処まで来たな。後は3階と4階に居なければ大丈夫だろう」
「主任サマサマだね」
「取りあえず4階から行くぞ。南が無事に部屋へ戻れたら俺も戻る」
「うん」

 4階に着きエレベーターの扉が開く。
 警戒しながら辺りを見渡すが何処にも見張りの先生が居なかった。

「よし、南。今のうちだ!」
「分かった」

 と言って南はエレベーターから降り、自分の部屋であろう前で立ち止まり

「私はもう大丈夫だからトモも無事でね」
「ああ、分かった!」

 再びエレベーターに乗り、今度は3階で降りる。
 ここにも見張りの先生は居なかった。

 自分の部屋の前まで行きドアをノックする。
 するとしばらくしてドアが開いた。

「おー友也、今まで何処行ってたんだよ」
「ごめん、ちょっとミスして戻って来れなかった」
「水瀬と一緒に居たんだろ?」
「ど、どうしてそれを!」
「女子部屋でも水瀬が帰って来ないから俺達にも連絡来たんだよ」
「そうだったのか。スマホ置きっぱなしだったから気づかなかった」

 そうだよな。俺がちゃんとスマホを持ち歩いていたらこんな事にはならなかったかもしれない。

「ま、そんな事より色々話聞こうか。こっちは友也が居ない事を隠すのに苦労したからな」
「ですよねー」


 こうして俺は中居と水樹に事の顛末を話した。
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